上海共同租界

上海共同租界は、19世紀半ばから20世紀前半にかけて中国上海に存在した、複数の外国列強が共同で管理した租界です。1842年の南京条約を契機に、イギリスとアメリカの租界が設けられ、その後、日本も加わりました。この租界は、上海市議会（工部局）が運営し、行政、警察、軍事機能を備え、独自の発展を遂げました。

概要

成立と初期の運営

当初、上海租界はイギリスとアメリカが個別に管理していましたが、1854年に両租界が統合され、上海市議会（工部局）が設立されました。工部局は、イギリス、アメリカ、日本の代表者によって構成され、共同で租界を運営しました。工部局には、各国の職員が配置され、租界の行政を担いました。1928年までは、中国人の参加は認められていませんでした。特に、1920年代まで議長を務めたアメリカ人のスターリング・フェッセンデンは、租界の発展に大きく貢献し、影響力を持っていました。

租界の機能と特徴

工部局は、租界内のインフラ整備や建築物の建設を推進しました。特に、南京路を中心に発展し、多くの公共施設や建築物が建設されました。また、香港警察の出向によって設立された上海共同租界工部局警務処は、独自の警察力を維持し、万国商団と呼ばれる独自の軍事力も有していました。これにより、租界は外国人のための安全な居住区としての役割を果たしました。上海には、租界時代の名残である多くの建築物が現存しており、特にバンド地区には新古典主義建築が多く残っています。

拡大

租界の拡大と人口増加

太平天国の乱以降、多くの中国人が租界に流入し、租界は何度か拡大を繰り返しました。1893年と1899年には、租界の面積は22.59平方キロメートルに達しましたが、人口増加は止まらず、常に過密状態でした。さらに、越界路を通じて工部局の支配地域は拡大していきました。

フランス租界との比較

上海共同租界は、フランス租界とは異なり、単一の国の所有ではなく、複数の列強による共同管理でした。フランス租界は、フランス領インドシナ総督府の管轄下にあり、フランス植民地帝国の一部でした。この違いから、上海共同租界は独自の自治を行っていましたが、その運営には複雑な要素が絡み合っていました。

五・三〇事件と警備体制の変化

1925年には、中国人デモ隊に対して工部局警察が発砲し、多数の死傷者を出す五・三〇事件が発生しました。この事件を契機に、租界の警備体制が見直され、SWATの原型となる特殊部隊が編成されました。上海租界警察のウィリアム・E・フェアバーンとエリック・A・サイクスは、フェアバーン・システムを確立し、より効果的な暴動鎮圧方法を導入しました。

テロ事件と人口流入

1930年代には、日本などに対するテロ事件が頻発しました。1935年には中山水兵射殺事件、1936年には日本人水兵銃撃事件が発生しました。当時の上海には、約28,000人の日本人が居住していました。また、国共内戦の激化や経済状況の悪化から、多くの中国人が租界に流入しました。1932年には、租界の人口は100万人を超え、1937年には第二次上海事変勃発によって約40万人の中国人が安全を求めて租界に避難しました。さらに、ナチス・ドイツの迫害を逃れたユダヤ人難民も多く流入し、租界は国際色豊かな地域となりました。

撤廃

二重の撤廃

上海共同租界の撤廃は、第二次世界大戦中の各国の思惑によって二重に行われることになりました。1941年12月8日の日本軍による上海占領と太平洋戦争開戦により、イギリスとアメリカの影響力は実質的に失われました。連合国側の職員は解任されましたが、1943年まで職務を継続しようとしました。一方で、1943年2月には、英中友好条約によって形式上、租界はイギリスから中国国民党の蔣介石に返還されました。しかし、蔣介石は当時上海を統治しておらず、これはあくまで形式的なものでした。

日本による返還

1943年7月には、上海市議会（工部局）の日本人によって、租界は日本と関係の深い汪兆銘政権下の上海市政府に返還されました。太平洋戦争後、中国国民党率いる中華民国政府が上海を統治した際、この返還事業の清算委員会が詳細を協議しました。工部局庁舎は現在も残っています。

租界の終焉

国共内戦で中国国民党が敗北し、台湾に撤退すると、1949年に中国共産党率いる中華人民共和国が成立しました。上海市政府（工部局）は、中国共産党が選んだ上海市長の管轄下におかれ、上海共同租界の歴史は幕を閉じました。

上海共同租界は、その成立から撤廃まで、国際社会と中国社会の両方に大きな影響を与えました。租界の遺産は、現代の上海にも色濃く残っています。

上海共同租界