世田谷局ケーブル火災

世田谷局ケーブル火災とは

1984年11月16日、東京都世田谷区で発生した電話ケーブル火災は、当時の日本電信電話公社（電電公社）世田谷電報電話局付近の地下洞道で発生しました。この火災により、世田谷区を中心とした広範囲で電話回線が不通となり、都市機能に大きな影響を与えました。復旧には9日間を要し、その間、社会生活や経済活動に大きな混乱が生じました。

火災の発生と延焼

火災は、午前11時50分頃、電話回線の増設工事中に発生しました。ケーブルを保護する鉛管をトーチランプで溶接する作業中、ランプの炎がポリエチレン製のケーブル被覆やウエスに引火したことが原因とされています。現場には、多数の加入者ケーブルや中継ケーブルが密集しており、火は瞬く間に燃え広がりました。火災は17時間近く燃え続け、翌日の午前4時37分にようやく鎮火しました。幸いにも死傷者は出ませんでしたが、現場作業員2名が一時行方不明となるなど、緊迫した状況でした。

火災による影響

この火災により、世田谷電話局管内の約8万9千回線の加入電話、公衆電話、一部の警察電話が不通となりました。また、三菱銀行（現:三菱UFJ銀行）のオンラインシステムが停止し、全国243支店で取引ができなくなるという事態が発生しました。さらに、大和銀行（現:りそな銀行）や第一勧業銀行（現:みずほ銀行）、山種証券（現:SMBC日興証券）の一部支店、世田谷区や狛江市内の郵便局にも影響が及びました。近隣の電話局管内でも電話が繋がりにくい状況が続き、119番や110番などの緊急通報も困難となりました。

復旧作業と人々の対応

電電公社は、復旧作業に総力を挙げました。延べ2万3千人の作業員が投入され、3億3500万円の直接工事費をかけて復旧作業にあたりました。また、機動隊員や消防隊員、伝言飛脚など、多くの人々が復旧に協力しました。三菱銀行はマイクロ波中継車を導入し、一時的にオンラインシステムを仮復旧させました。電電公社は臨時公衆電話を設置し、被災地域外から電話内容をメモで伝達する「伝言飛脚」を実施しました。また、郵政省は世田谷区・目黒区内への通常郵便物を速達扱いとし、世田谷区役所は札幌市内に臨時電話回線を設けるなど、関係各所が連携して対応にあたりました。

完全復旧と教訓

11月20日、三菱銀行のオンラインシステムが完全復旧し、同日夜には一部の加入電話が復旧しました。そして11月25日、電電公社は完全復旧を宣言しました。この火災は、バックアップ体制の不備や、一つの施設に接続が集中する問題点を浮き彫りにしました。また、洞道内での火災対策の甘さも露呈しました。この事件を教訓に、難燃性ケーブルの採用、防火壁の設置、洞道内作業管理の強化などの対策が実施されるようになりました。この火災は、都市におけるインフラの重要性と、災害発生時の対応のあり方を深く考えさせる出来事となりました。

その他の被害施設と過去の類似事故

この火災では、銀行、病院、大学、公的機関など、多くの施設が被害を受けました。過去にも、1975年に北海道旭川電報電話局で火災が発生し、1.9万回線が不通となる事故が発生しています。また、ニューヨークのアベニュー電話局の火災では、10万回線が不通となり、復旧に半年を要しました。これらの事例からも、通信インフラの脆弱性と災害対策の重要性が伺えます。

問題点と対応

この火災の最大の問題点は、バックアップ体制の不備でした。電電公社は、一つの施設に対し一つの局からの接続しか認めていなかったため、一つの電話局で問題が発生すると、全国に影響が及ぶ危険性がありました。また、三菱銀行の事務集中センターが東京の一箇所に集中していたことも、被害を拡大させる要因となりました。三菱銀行は、そろばんや伝票を使った手作業訓練を実施しており、現場の職員も手作業に慣れていたことが、被害を最小限に抑える一因となりました。さらに、洞道が鉄筋コンクリート製であり、ケーブルが低電圧で使用されていたため、火災の危険性が想定されていなかったことも問題点として挙げられます。通信衛星「さくら2号」の災害対策用車載局も、加入者ケーブルが不通となったため、その機能を十分に発揮できませんでした。これらの教訓から、二重帰属、2元化、バックアップ体制の整備、火災対策の強化などが重要であることが再認識されました。

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