世界共和国へ

『世界共和国へ』詳細解説：資本、国家、そしてアソシエーション

柄谷行人著『世界共和国へ――資本＝ネーション＝国家を超えて』（岩波新書、2006年）は、従来の社会構造や経済理論を覆す、挑戦的な一冊です。本書は岩波新書の1001冊目という節目にあたり、新たな装丁デザインを採用した記念すべき作品でもあります。

社会の四形態とマルクスの真意

本書は、産業先進国のありうる形態を自由主義、福祉国家資本主義、国家社会主義、リバタリアン社会主義の四つに分類します。1990年以降は自由主義が優勢ですが、柄谷はマルクスの思想を、国家社会主義ではなく、リバタリアン社会主義、つまりアナーキズムやアソシエーショニズムに近いものと解釈します。この見解は、従来のマルクス像を大きく変えるものです。

資本・国家・ネーションとアソシエーションの統合

経済人類学者カール・ポランニーの「市場交換、互酬、再分配」という概念を、「資本、ネーション、国家」と言い換えることで、柄谷は独自の枠組みを構築します。そして、それらを包含し超越するものとして「アソシエーション」を提示します。ポランニーの「再分配」が国家による略取を含む点に着目し、「略取＝再分配」という修正を加えるなど、既存理論への批判的な姿勢も見られます。さらに、マルクスの「可能なるコミュニズム」もアソシエーションの一形態と位置づけ、プルードンの思想との関連性も指摘しています。

ネーションを友愛感情と想像力に関わるもの、国家を悟性の表象、市民社会と市場経済を感性の表象と定義し、これらを想像力によって統合する必要性を強調します。文学行為が悟性と感性を想像力によって統合する行為であると指摘するのも、この文脈に含まれます。アソシエーションは普遍宗教が開示したものであり、その本質はカントのいう「自由の互酬性」であると主張します。

消費するプロレタリアートと資本への対抗

産業資本主義の特徴を、消費する労働者（プロレタリアート）の自己再生システム（オートポイエーシス）として捉え、消費地点における闘争が資本への対抗手段になると論じます。これは、従来の生産現場における労働者闘争とは異なる、新たな視点からのアプローチです。

国家と世界共和国

国家は他の国家との関係性においてのみ存在意義を持つと主張し、アソシエーション運動が国家からの「上からの分断」を避けられないことを指摘します。その解決策として、カントの世界共和国という考え方を提示し、各国家が世界連合に主権を委譲することなしに、アソシエーションの実現は不可能だと結論づけます。

貨幣論：商品貨幣と世界通貨

マルクスの貨幣の商品起源説への批判と再反論を展開します。国家による約定と捉える従来の批判に対して、ソ連末期のルーブルの機能不全を反証に挙げ、また、アメリカによるゴールドとの兌換停止後もドルが世界通貨であり続ける現状を分析し、ゴールドが依然として世界貨幣であると主張します。世界通貨は商品貨幣でなければならないという結論に至ります。

評価と位置づけ

柄谷自身は、本書を文芸批評の延長線上にある世界史への批評と位置づけており、その意図を直接的に説明することを避けています。本書は既存の枠組みにとらわれず、多様な視点から社会構造を分析し、世界共和国の理念を提示することで、現代社会への示唆に富む内容となっています。

関連情報

本書と関連性の深い作品として、『世界史の構造』や、本書の内容を論じた佐藤優氏の『国家論』などが挙げられます。また、イソノミア、コスモポリタニズム、世界システム論、世界の一体化、グローバリズム、歴史哲学といった概念も本書の理解に役立ちます。

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