中井弘

中井弘（なかいひろし / ひろむ、1839年 1月14日（天保9年11月29日） - 1894年（明治27年）10月10日）は、日本の武士（薩摩藩士）、外交官、政治家であり、号は桜洲（おうしゅう）、桜州山人とも称しました。また、横山休之進、鮫島雲城、後藤休次郎、田中幸介、中井弘蔵など、多くの別名を持っています。書家としても名を残し、鹿鳴館の名付け親としても知られています。著書には『合衆国憲法略記』、『西洋紀行航海新説』、『魯西亜土耳其漫遊記程』などがあります。その破天荒な言動から「明治の怪傑」「奇人」「滑稽家」として知られ、多くの逸話が残っています。

生涯

生い立ちと脱藩

中井弘は、薩摩藩鹿児島城下に藩士・横山休左衛門（詠介）の長男として生まれました。幼名は休次郎、元服後に休之進と改名し、藩校の造士館で学びました。祖父の代までは藩の重職を務めていましたが、父の代には没落し、経済的に困窮していました。その後、脱藩して京都で浪人となりますが、後藤象二郎や坂本龍馬らにその剛毅な性格を愛され、彼らの資金援助を得て、1866年11月（慶応2年10月）に土佐藩士の結城幸安と共にイギリスへ密航留学を果たしました。

外交官としての活躍

1867年春に帰国後、宇和島藩周旋方として京都で活動しました。中井弘三と改名し、1868年1月には外国事務各国公使応接掛に任命されました。同年3月には、イギリス公使パークス襲撃事件が発生し、パークス一行の護衛として襲撃犯の一人である朱雀操と斬り合い、自身も頭部に傷を負いながらも、朱雀の胸部を刺しました。その後、駆けつけた後藤象二郎が朱雀を斬り倒し、首を刎ねました。パークスらを救った功績により、後藤と共にイギリス・ビクトリア女王から宝刀を贈られました。しかし、この事件が原因で、尊王攘夷派からは「同志を斬り外国人を守る国賊」として暗殺の危険に晒されることになりました。この危機を回避するため、中井は尊王家・高山彦九郎を弔う詩を書きつけた名入りの扇を数百本、京都寺町の扇屋に注文し、代金を支払わずにわざと扇屋に叩き売らせ、それを市中に流通させることで、自身の尊王の意思を広く知らしめ、難を逃れました。

明治政府での活動

1871年に官途に復帰し、1872年には左院四等議官に就任。1873年には、中国、ロシア、トルコ、ギリシャ、インド、エジプト、フランス、イギリス、アメリカ合衆国などを歴訪し、1876年に帰国しました。この時の記録は『漫遊記程』に残されています。イギリス滞在中は日本公使館書記官を務めました。帰国後は、工部省権大書記官に就任し、寺島宗則らと共に外交面で活躍しました。明治17年には滋賀県知事、貴族院議員を歴任し、明治23年10月20日には錦鶏間祗候となりました。明治26年には京都府知事に就任し、第4回内国勧業博覧会や京都舞鶴間鉄道の建設に尽力しましたが、完成を見ることなく、執務中に脳出血で倒れ、死去しました。享年57歳。

人物・逸話

中井弘は、その破天荒な性格と奇行で知られ、数々の逸話が残っています。

井上馨との関係: 井上馨の妻である武子（新田俊純の娘）は、当初中井弘の妻であったとする説がありますが、史料上の裏付けはなく、昭和以降の創作であると考えられています。実際には武子は井上馨との結婚が初婚です。
原敬との関係: 中井の娘（二番目の妻との子）である貞子は、原敬の最初の妻であり、そのため原敬は中井弘と気が合ったとされています。しかし、貞子は原敬と離婚しており、貞子との離婚後、原敬は長年の愛人と再婚しました。
奇行の数々: 岩倉具視と大久保利通が囲碁をしていた際に碁盤を転覆させたり、樺山資紀を公衆の面前で大声で叱責したり、宴席で明治天皇の御前で西村茂樹をビール瓶で殴打するなど、数々の奇行が記録されています。
楢崎龍（お龍）の写真: 中井が残した幕末・明治期の著名人を写した写真アルバムの中に、唯一写っている女性の立ち姿の写真が、坂本龍馬の妻である楢崎龍（お龍）ではないかという説がありました。科学警察研究所での鑑定の結果、同一人物の可能性があるとの結果が出ましたが、この鑑定方法には疑問が残るとされ、同様の写真が他にも見つかっていることから、現在では否定されています。

栄典

位階
1886年（明治19年）10月28日 - 従四位
1884年（明治17年）8月30日 - 正五位
勲章
1885年（明治18年）4月7日 - 勲四等旭日小綬章
1888年（明治21年）5月29日 - 勲三等旭日中綬章
1889年（明治22年）11月25日 - 大日本帝国憲法発布記念章
1894年（明治27年）10月8日 - 勲二等瑞宝章

参考文献

犬塚孝明『明治外交官物語』吉川弘文館 2009年
屋敷茂雄『中井桜洲明治の元勲に最も頼られた名参謀』幻冬舎ルネッサンス 2010年

外部リンク

西洋紀行航海新説
中井桜洲

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