中原哲泉

中原哲泉：図案家、七宝家としての生涯

中原哲泉（1864年 - 1942年）は、明治から昭和にかけて活躍した図案家、七宝家です。特に、並河靖之の七宝作品における下絵を手がけた絵師として広く知られています。しかし、哲泉は単なる下絵師ではなく、自らも優れた七宝作品を制作した七宝師でもありました。

生い立ちと初期の活動

文久3年（1864年）に京都で生まれた哲泉は、幼名を哲之輔興忠と名乗りました。父は中原興利、母は旧公卿山井家の出身であり、公家文化に囲まれた環境で育ちました。明治維新後、一家は禁門の変の兵火で家を失い、生活は困窮を極めます。明治11年（1878年）には京都舎密局で七宝技術を学び、その才能を開花させました。

並河靖之との出会いと協力

明治12年（1879年）、哲泉は並河靖之の七宝製造事業に参画します。並河はすでに第一回内国勧業博覧会で受賞しており、その才能は認められていました。哲泉は、並河と共に七宝の技術を研究し、初期には下絵に専念しましたが、次第に釉薬の改良や焼成法にも関わるようになります。森寛斎に「これは俺でも描けん」と言わしめたほどの図案の才能を持っていました。

並河は哲泉について、「（中原は）がんらい画は習うたことがないのでございます。しかし此者に描かせますれば、私の思う通りにできる。また画を描く時に針金の曲げ工合も考えてありますから、針金も画の通り曲げられる。これが我がものという画師です。」と語っています。

独自の工房と作品

明治18年（1885年）頃、哲泉は並河の工房近くに自身の住居と工房を構え、職人を抱えながら制作活動を行いました。工房は七宝のほぼ全ての工程をこなせる規模であり、多くの職人が出入りしていたことが記録されています。哲泉の図案は、鳳凰や龍、蝶など、京都の公家文化を反映したものが多く、その優雅で繊細なデザインは高く評価されました。並河が帝室技芸員に任命された後は、勲章の図案も多く手がけ、稲葉七宝などにも図案を提供しました。

晩年と庭園設計

大正年間には、哲泉自身も作品を博覧会や展覧会に出品し、賞を得ています。また、京都の造園家・小川治兵衛の依頼により、円山公園や平安神宮神苑など、名園として知られる庭園の設計にも才能を発揮しました。哲泉は昭和17年（1942年）に82歳で亡くなるまで、七宝家、図案家としてその才能を発揮し続けました。

中原哲泉は、並河靖之という偉大な七宝家の陰に隠れがちですが、その才能は並河に劣らず、日本の七宝界に多大な貢献をした人物です。彼の作品や図案は、今もなお多くの人々を魅了し続けています。

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