中沼了三

中沼了三（なかぬま りょうぞう）

中沼了三は、文化13年（1816年）に隠岐国（現在の島根県隠岐の島町）で生まれた儒学者です。名は之舜（これのぶ）、通称は了三、字は魯仲（ろちゅう）、号は葵園（きえん）と称しました。その学識と功績から、贈正五位を追贈されています。

経歴

生い立ちと儒学の道へ

中沼了三は、医師である中沼養碩の三男として生まれました。天保6年（1835年）に京都へ上り、崎門学派の浅見絅斎の学統を受け継ぐ鈴木遺音（恕平）の門下に入り、儒学を深く学びました。鈴木遺音の没後、葵園浅見安正の学統を継承し、京都で私塾を開きました。

教育者として、政治家として

中沼了三は、学習院の講師や孝明天皇の侍講を務めるなど、教育者として才能を発揮しました。彼の塾からは、西郷従道、桐野利秋、川村純義、千葉貞幹、松田重助など、後に明治維新で活躍する多くの人材が輩出されました。また、中岡慎太郎も西郷隆盛との接触を求めて入門しています。中沼了三は、天誅組の藤本鉄石とも親交があり、その招魂碑を建立しています。

嘉永年間には学習院で儒官を務め、安政年間には仁和寺宮嘉彰親王の侍講として、戊辰戦争では嘉彰親王の参謀として活躍しました。元治元年（1864年）には、孝明天皇の勅命により大和十津川に文武館（現在の奈良県立十津川高等学校）を創設し、初代教授に就任しました。

明治維新とその後

慶応4年（1868年）の鳥羽・伏見の戦いでは新政府軍の参謀を務め、隠岐騒動（隠岐維新）では勤王思想の精神的な支柱となりました。明治維新後も新政府参与、明治天皇の侍講、昌平学校の一等教授などを歴任し、皇室からの信頼も厚く、高い名声を得ました。十津川郷士との関係も深く、彼らの宮廷警護を実現させるなど尽力しました。

しかし、維新後に政府の実権を掌握しようとする三条実美らと対立し、明治3年（1870年）に官を辞しました。その後、二卿事件への関与を疑われ投獄されるなど不遇な時期を過ごしましたが、赦免後には湖南学舎を開き、教育活動を続けました。明治29年（1896年）に京都で81歳で亡くなりました。大正4年（1915年）に正五位が追贈されています。

中沼家について

中沼家は代々医師の家系であり、現在でも医師や企業経営者など、多方面で活躍する人材を輩出しています。中沼家には隠岐騒動に関わった人物との間に共通の子孫がいます。

参考文献

『中沼了三伝―隠岐の生んだ明治維新の先覚者 明治天皇侍講』中沼郁 中沼了三先生顕彰会 1976年
『中沼了三を通してみた維新前後の教育と政治〈第5集〉』 海城高等学校 1979年
『隠州渡海日記・中沼了三書翰〈第6集〉』 海城高等学校 1980年
『もう一つの明治維新-中沼了三と隠岐騒動』中沼郁 斎藤公子 創風社 1991年
『日本幻論』五木寛之 新潮社 1995年
『山陰沖の幕末維新動乱』 大西俊輝 近代文芸社 1996年
* 『隠岐共和国ふたたび―「隠岐学セミナー」での出会い』 牧尾実 論創社 2008年

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