中華人民共和国刑法

中華人民共和国刑法

中華人民共和国刑法は、中国における刑法典です。1997年3月14日に全国人民代表大会で改正され、同年10月1日に施行されました。この刑法は、中国における犯罪と刑罰を規定する重要な法律です。旧刑法典を全面的に改正し、現代社会に対応した内容となっています。

概要

刑法は、第1編「総則」と第2編「分則」（各則）の二つから構成されています。総則では、刑法の基本原則や適用範囲、責任能力などが定められています。分則では、具体的な犯罪類型とその刑罰が規定されています。

罪刑法定主義

改正前の旧刑法には、類推適用を認める規定が存在しましたが、改正によって削除されました。現行の刑法では、罪刑法定主義が明文化され、「法律に明文で犯罪と規定されていない行為は、罪を確定し、刑罰を科すことはできない」と定められています。また、遡及処罰の禁止や、刑罰の軽重が犯罪行為と責任に見合うべきとする罪刑均衡の原則も明記されています。

場所的適用範囲

原則として、中国の領域内および中国籍の航空機・艦船内で発生した犯罪に適用されます（属地主義）。ただし、一定の犯罪については、中国の領域外で中国人が犯した犯罪、あるいは中国人に対する犯罪にも適用されます（属人主義）。

刑事責任

一定の要件を満たす場合には、犯罪の成立が否定され、「刑事責任を負わない」とされます。これは、日本の刑法における構成要件該当性や違法性阻却事由とは異なり、刑事責任を問わないとするものです。

故意犯処罰の原則

過失犯は法律に規定がある場合にのみ刑事責任を負い、故意犯処罰の原則が採用されています。また、故意・過失のない行為は犯罪とはみなされません。

刑事責任年齢

原則として、満16歳以上の者が刑事責任を負います。ただし、殺人や傷害致死、強姦、放火などの重大犯罪については、満12歳以上であれば刑事責任を負う場合があります。18歳未満の者に対しては、刑を軽くしたり減軽したりする配慮がなされます。

精神病患者等の行為

精神病患者が自己の行為を弁識・抑制できない状態で行った行為は、刑事責任を負いません。ただし、必要に応じて政府による「強制医療」の対象となります。また、自己の行為を弁識・抑制する能力が完全には失われていない場合は、刑の減軽が可能です。聾唖者や盲者に対しても、刑の減免が考慮されることがあります。

正当防衛・緊急避難

正当防衛行為は刑事責任を負いません。「不法侵害」に対する防衛行為が認められますが、ここでの「不法侵害」には、刑事責任を負わないとされる年齢に満たない者や精神病患者による行為も含まれます。過剰防衛は刑の減免事由ですが、殺人や強盗、強姦などの特定の犯罪に対する防衛行為は、刑事責任を負わないとされています。緊急避難についても同様に、刑事責任を負わず、過剰避難は刑の減免事由です。

予備・未遂・中止

原則として、全ての犯罪について予備行為が犯罪となります。ただし、既遂犯に比べて刑が軽減されます。未遂は、障碍未遂のみを指し、中止未遂は含まれません。中止は、刑の必要的減免事由となります。

共同犯罪

共同犯罪は、二人以上の者が共同で行う故意による犯罪を指します。共同犯罪者は、役割に応じて主犯と従犯に分かれますが、正犯と共犯の区別はありません。主犯は、犯罪集団を組織・指揮した者や、主要な役割を担った者を指し、従犯は、副次的・補助的な役割を担った者を指します。教唆犯は、共同犯罪における役割に応じて処罰されます。また、脅迫されて犯罪に加担した者に対しては、刑が減免されることがあります。

単位犯罪

会社、企業、事業体、団体によって行われる犯罪を「単位犯罪」といい、企業犯罪が実質的な内容です。単位には罰金が科され、併せて直接責任者も処罰されます。

刑罰

刑罰には、主刑と付加刑があります。

主刑: 管制（自由制限刑）、拘役（短期自由刑）、徒刑（長期自由刑）、死刑
付加刑: 罰金、政治権利の剥奪、財産没収

各則

改正の際に、多くの犯罪類型が追加され、条文数が非常に多くなっています。分則は、国家の安全を害する罪、公共の安全を害する罪、社会主義市場経済秩序を破壊する罪、公民の人身の権利・民主的権利を侵害する罪、財産を侵害する罪、社会の管理秩序を妨害する罪、国防の利益を害する罪、汚職賄賂の罪、瀆職の罪、軍人の職責に反する罪など多岐にわたります。


この刑法は、中国の社会秩序を維持し、犯罪を抑制するための重要な役割を果たしています。

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