九二式十糎加農砲

九二式十糎加農の概要

九二式十糎加農（きゅうにしきじっせんちかのん）は、1930年代初頭に大日本帝国陸軍によって開発された加農砲であり、その俗称は九二式十糎加農砲（きゅうにしきじっせんちかのんほう）です。この砲は、ノモンハン事件や日中戦争、さらには第二次世界大戦においても、帝国陸軍の主力として活躍しました。特に、「野戦重砲兵」と呼ばれる部隊が運用したことで知られています。

開発経緯

本砲の開発は、1923年に始まりました。当初は、十四年式十糎加農を参考にしつつ、牽引車による自動車牽引を想定して設計されました。このため、機動性と威力を高めることを重視しました。1924年には研究方針が定まり、1925年には試製の決定が下されます。そして1927年に試製砲が完成しましたが、最初の設計は重量制限を超えてしまい、射程の延長も求められることとなりました。再び研究が行われ、1932年に新たな試製砲が完成し、1935年に正式に制式化されました。

特徴と性能

九二式十糎加農は、同クラスの加農砲の中では比較的コンパクトで軽量な部類に入ります。しかし、その軽量化の影響で、各部の強度は不十分であったため、実戦では脚部が折れる事例が多発しました。これは、長射程を持つ本砲が、実弾射撃を行う際の演習場の広さ不足から来るものでした。消耗を避けるため、平時には使用が控えられる装薬も存在し、使用条件に応じて射程や弾道特性を調整しました。

貫通能力

装甲に対する貫通能力は、射距離や使用した弾薬の種類により変わるため一概には述べられませんが、近衛第三師団の資料によれば、九二式十糎加農砲の徹甲弾は、100mの距離で175mmの鋼板を貫通する能力を持っていました。これにより、戦闘時における敵装甲車両への対抗力が確保されていました。

運用と実績

九二式十糎加農は、特に1940年代において、軍直轄の重砲兵部隊で運用されました。これらの部隊は、通常の野砲や軽榴弾砲とは異なり、重装備の加農を扱ったため、その運用は専門的なものでした。初めて実戦で使用されたのは1939年のノモンハン事件です。ここで野戦重砲兵第7連隊がこの砲を16門運用し、戦局に貢献しました。

さらに、ガダルカナル島の戦いにおいても、九二式十糎加農は低伸弾道を活かし、敵に対する効果的な散発的砲撃を行いました。このように、多くの戦場で活躍した九二式十糎加農は、兵士たちから「ジッカ」と呼ばれ親しまれていました。

その他

1943年には九五式重戦車を利用した自走砲への搭載試験が行われましたが、速度が不十分だったため、このプロジェクトは中止となりました。九二式十糎加農は、その軽量化と長射程が特長であり、戦争終結まで長く使用され続けました。

参考文献

• - 竹内昭・佐山二郎『日本の大砲』、出版協同社、1986年
• - 陸普第六六二七号「九二式十糎加農砲取扱法」アジア歴史資料センター
• - 白井明雄 『日本陸軍「戦訓」の研究』 芙蓉書房出版、2003年
• - 佐山二郎『日本陸軍の火砲』、光人社NF文庫

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