九二式手榴弾

九二式手榴弾について

九二式手榴弾（きゅうにしきてりゅうだん）は、大日本帝国陸軍によって使用された特徴的な手榴弾で、化学物質を内部に充填した点が大きな特色です。その外観は九一式手榴弾とほぼ同じですが、内容物には「あか剤」と「みどり剤」と呼ばれる有害な化学物質が使用されています。

概要

九二式には、主に二種類のモデルが存在します。「あか」曳火手榴弾と「みどり」曳火手榴弾で、両者とも爆発すると特定の毒物が放出され、相手にくしゃみや涙を引き起こします。どちらのタイプも十年式擲弾筒から発射できる設計となっており、全備弾量は「あか」が590g、「みどり」が587gです。これらの手榴弾は、陸軍科学研究所によって開発が行われました。

九二式「あか」曳火手榴弾の開発は1927年（昭和2年）から始まり、1930年（昭和5年）3月に初めての試験が実施されました。研究後、九一式手榴弾との弾体の統一が図られ、小規模な改良を施した上で、1933年（昭和8年）11月に仮制式が上申されました。同様に、九二式「みどり」曳火手榴弾も1927年から開発が進められ、1931年12月に完成し、同年の11月に仮制式が上申されました。

構造

九二式手榴弾は、弾体、炸薬、起爆筒、装薬筒、信管の5つの構成要素から成っています。弾体は鋳鉄製で、外部には筋が入っているため、爆発時に効果的に破片を生成することができます。その内部容積は、所定の威力を発揮するために30立方cm以上が必要でした。

炸薬室は黄銅製で、弾体の上部からねじ込み式で固定されています。化学物質が漏れないように、炸薬室と弾体の接触部分は鉛鐶で密閉されており、さらにねじ部には「マグネシヤキツト」が用いられ、気密性を保証しています。炸薬としては、茶褐薬30gが圧搾直填されています。起爆筒と装薬筒は九一式手榴弾と同型で、炸薬室内に収められて起爆を実現します。信管には曳火手榴弾一〇年式が使用されています。具体的に、九二式「あか」曳火手榴弾にはあか一号が40g、九二式「みどり」曳火手榴弾にはみどり一号とみどり二号の混合物37gが充填されています。

化学物質

内部に使用されたあか一号は、ジフェニル青化砒素を基にしており、気温15度で液体として存在します。純度は92%で、アニリンや炭酸ナトリウムなどを原料として製造されます。このあか剤は鼻や喉を刺激し、くしゃみを引き起こすほか、頭痛や嘔吐を引き起こす作用があります。

一方、みどり一号は一塩化メチルフェニルケトンを用い、一塩化酢酸やベンゼンから作られ、純度は90%以上です。みどり二号は臭化メチルベンゾールで、トルエンと臭素を原料にしており、純度は70%以上。みどり一号は強い催涙作用を持ち、眼に刺激を与え視力を妨げ、皮膚に接触すると疼痛を引き起こします。この毒効果は短期間で消失する傾向があります。みどり二号も催涙性があり、濃度が高い場合には悪心や頭痛を引き起こすことが知られています。

効力

九二式手榴弾が炸裂すると、破片が飛び散り、毒物が微細な粒子となって空気中に浮遊します。どちらのタイプも、最大効果は半径5m、高さ3mの範囲で及びます。特に風速が1〜2mである好条件下では、風下750平方mの広範囲に影響を及ぼします。掩蔽壕内では、その効果が強く、十数分間にわたり持続すると言われています。

九二式手榴弾は、その革新的な設計や使用されている化学物質により、古典的な手榴弾とは異なる独自の使用方法や戦術に基づく兵器として、当時の軍事戦略に大きな影響を与えました。

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