了庵慧明

了庵慧明

（りょうあんえみょう） 建武4年/延元2年（1337年）生、応永18年（1411年）3月27日没。南北朝時代から室町時代前期にかけての曹洞宗の傑僧である。俗姓は藤原氏と伝わり、出生地は相模国糟谷、現在の神奈川県伊勢原市付近とされている。実妹に同じく曹洞宗の尼僧として知られる慧春尼がいた。

慧明は最初、鎌倉の臨済宗円覚寺に入り、不聞契聞に師事して出家した。その後、諸国の著名な禅僧を遍歴し、自己の道を深めようと努めた。転機となったのは、摂津国（現・大阪府および兵庫県の一部）の永澤寺で通幻寂霊（つうげんじゃくれい）に出会ったことであり、これにより曹洞宗に改宗した。通幻の教えに感銘を受けた慧明は、さらに深く学ぶため、能登国（現・石川県の一部）の總持寺へ赴き、通幻の師である峨山韶碩（がさんじょうせき）の薫陶も受けた。峨山が遷化（せんげ）した後は再び永澤寺に戻り、通幻のもとで研鑽を積んだ。

永徳3年（1383年）、慧明は師である通幻の法嗣（はっす）を継承する。通幻の門下からは多くの優れた禅僧が輩出されたが、慧明はその中でも特に優れた十人「通幻十哲」の一人に数えられた。さらに、石屋真梁（せきおくしんりょう）と共に「二神足（にしんそく）」とも称され、通幻門下における慧明の地位の高さがうかがえる。

通幻の法を継いだ慧明は、曹洞宗の発展に寄与する。能登国の妙高庵（みょうこうあん）に入り、總持寺の塔頭（たっちゅう）五院の一つとして、總持寺の輪番住持を務めた。また、師である通幻寂霊が開創した寺院の住持を歴任し、摂津の永澤寺、近江国（現・滋賀県）の總寧寺（そうねいじ）、越前国（現・福井県）の龍泉寺（りょうせんじ）などで宗風を広めた。

応永元年（1394年）、慧明は故郷である相模国に戻り、南足柄の地に寺院を開創した。これが現在の神奈川県南足柄市にある曹洞宗の名刹、最乗寺（さいじょうじ）である。最乗寺は了庵慧明を開山として仰いでおり、その創建は彼の生涯における重要な業績の一つである。当時、禅の修行僧や学識経験者が教えを乞うために訪れる寺院としては、最乗寺と福昌寺（ふくしょうじ、現在の鹿児島県にあった臨済宗の寺院、現存せず）が一般的であったというほど、最乗寺は禅林における中心的な存在となった。

晩年、慧明はその名声ゆえに多くの来訪者が絶えない状況に、徐々に対応を避けるようになったという。そして、最乗寺からおよそ三里（約12キロメートル）ほど離れた場所に「露栢庵（ろはくあん）」と名付けた小さな草庵を結び、そこで静かな余生を送った。応永18年（1411年）、慧明はこの露栢庵において、数え年75歳で安らかに示寂した。彼の法嗣としては、無極慧徹（むごくえてつ）や韶陽以遠（しょうよういおん）などが知られ、その教えは後の世に受け継がれている。

了庵慧明は、曹洞宗の基礎を築いた峨山韶碩、そしてその法を継いだ通幻寂霊という二人の偉大な師のもとで深く学び、その正統な法を継承・発展させた高僧である。特に故郷に創建した最乗寺は、現在も多くの人々の信仰を集めており、彼の功績を今に伝えている。通幻門下の重鎮として、また最乗寺開山として、慧明は日本の曹洞宗史に欠かせない人物として位置づけられている。

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