二十世紀研究所

二十世紀研究所：戦後日本の知性を彩った知の拠点

1946年、敗戦直後の日本において、独特の知的な活動拠点として誕生したのが「二十世紀研究所」です。立教大学教授であった細入藤太郎氏が、親族から譲り受けた多額の資金を基に設立されたこの財団法人は、「社会科学および哲学の研究と普及」を目的として、活発な活動を展開しました。しかし、わずか数年で活動を停止することになります。その栄枯盛衰を紐解き、戦後日本の知的状況の一端を探ってみましょう。

設立と資金源：隠された資金の謎

研究所の設立には、細入藤太郎氏に加え、清水幾太郎氏、大河内一男氏が中心的な役割を果たしました。細入氏が提供した設立資金100万円の出所は、後に児玉誉士夫氏の証言により、戦時中に上海で活動した児玉機関の蓄財の一部であったことが明らかになりました。この資金は、GHQによる大学への教員追放処分を受けた立教大学の再建支援にも使われていたという複雑な経緯も持ち合わせています。

清水幾太郎氏は、戦前からプラグマティズムを研究しており、研究所を現代社会をプラグマティズムの視点で分析する実践の場と位置づけました。戦前から大学を社会人に開放することを主張していた清水氏の理想が、この研究所設立によって具現化されたと言えるでしょう。

研究活動とメンバー：錚々たる顔ぶれ

研究所は東京都港区芝公園の中央労働会館内に拠点を置き、研究会活動、全国での講演会、そして紀要や単行本の刊行などを通して、活発な活動を展開しました。その活動内容は、一般向けの講演会から、専門性の高い研究会まで多岐に渡り、大盛況を博しました。農村調査なども行うなど、活動範囲は広く、多様な視点を取り入れていたことが伺えます。

研究所には、清水幾太郎氏、大河内一男氏、細入藤太郎氏らに加え、戦後日本の思想界を代表する錚々たるメンバーが集まりました。丸山眞男、林健太郎、久野収、福田恆存、高橋義孝、中野好夫、宮城音弥といった、今日でもその名を記憶される多くの知識人が、所員として活躍しました。これらの知識人たちは、研究所を通して積極的に社会へ発信し、戦後日本の思想・文化に大きな影響を与えました。

庄司武史氏の研究によると、他にも多くの知識人が所員候補として検討されていましたが、諸事情により実現しなかったことが分かっています。これらの事実からも、二十世紀研究所がいかに多くの知性を集めていたかがわかります。

衰退とその後：時代の流れと経済的困難

しかし、研究所の活動は長くは続きませんでした。猛烈なインフレによる経済的困難や、大学や総合雑誌の機能回復といった社会情勢の変化が、研究所の活動を徐々に圧迫していきました。設立から3年足らずの1948年秋には、講演会などの「普及」活動は事実上停止。その後も小規模な「研究」活動は続けられましたが、財団法人としての活動を完全に終了したのは1987年6月でした。残された資金は、清水幾太郎氏によって日本赤十字社に寄付されたと言われています。

結論：戦後日本の知性の一断面

二十世紀研究所は、戦後日本の混乱期において、自由な知の探求と社会への発信を希求した、重要な試みでした。短命に終わったものの、その活動は、戦後日本の思想・文化に大きな足跡を残しました。研究所の盛衰は、戦後日本の社会情勢、そして知識人の役割の変化を理解する上で、重要な事例として位置づけられるでしょう。研究活動の成果は、多くの書籍や論文に記録されており、現在でも貴重な資料として活用されています。 この研究所の活動を通して、私たちは戦後日本の知的な風景の一端を垣間見ることができるのです。

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