二本柳寛

二本柳 寛（にほんやなぎ ひろし）は、1917年11月20日に北海道札幌市で生まれた日本の俳優です。生年については1912年説も存在します。本名を黒井 洵といい、戦中から戦後にかけて、主に敵役として強い印象を残した二枚目俳優として知られています。

札幌で少年期を過ごした後、横浜高等工業学校で学びました。卒業後の1933年、劇団築地座に加わり、チェーホフ作『三人姉妹』で俳優としての第一歩を踏み出しましたが、劇団は短期間で解散。その後は俳優活動を一時中断し、東京中央放送局（現在のNHK）に勤務して、終戦を迎えるまで放送の仕事に携わりました。

放送局勤務時代には、本名である黒井洵名義で戦中の映画にも数本出演記録があります。1942年の東宝映画『ハワイ・マレー沖海戦』や、1943年の満州映画協会・東宝映画共同製作作品などに出演していますが、多くの資料では、彼の本格的な映画俳優としてのキャリアは戦後から始まるとされています。

終戦後の1947年、松竹京都撮影所製作の『踊り子劇場』で、本名を用いて芸能界に復帰しました。翌1948年に大映に入社するにあたり、芸名を二本柳寛と改名。1949年2月公開の安田公義監督作品『最後に笑う男』が、改名後の初出演作となりました。この作品で彼は主演の敵役を演じ、その端正な容姿と確かな演技力でたちまち注目を集めました。その後すぐに主演作にも抜擢され、森一生監督作品などにも多く出演するなど、スケールの大きな二枚目俳優として将来を嘱望される存在となりましたが、1951年に惜しまれつつ大映を退社しました。

大映退社後は主演作こそ減ったものの、精力的な俳優活動を続けました。同年に短期間東宝に在籍した後、フリーランスの道を選びます。この時期からは脇役としての出演が増えますが、その堅実な演技力は多くの名匠たちからも高く評価されました。例えば、1951年の小津安二郎監督作品『麦秋』では主人公の兄の親友役、同じく1951年公開の成瀬巳喜男監督作品『めし』では主人公の従兄役、1954年の山本薩夫監督作品『太陽のない街』では労働組合の指導者役など、日本映画史に残る錚々たる監督たちの作品で確かな演技を披露しました。

1956年からは日活に籍を移し、当時の日活の看板であったアクション映画を中心に、主人公を支える個性的な脇役として欠かせない存在となりました。映画出演の一方で、テレビドラマにも活動の場を広げています。晩年も精力的に活動を続けましたが、1970年1月28日、心不全のため52歳で死去しました。新作映画の公開を待たずしての突然の訃報でした。

二本柳寛は、初期の二枚目や敵役から、晩年の深みある脇役まで、多岐にわたる役柄を演じ分けることができる実力派俳優でした。劇団、放送局、そして松竹、大映、東宝、日活と、様々な環境でキャリアを積み重ね、その確かな演技力で日本映画・テレビ史に足跡を残した俳優です。

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