二重微小染色体

二重微小染色体（ダブルマイニュート染色体）

二重微小染色体（にじゅうびしょうせんしょくたい、英: Double minute; dmin）は、悪性腫瘍、すなわちがん細胞の核内にしばしば観察される、通常の染色体とは異なる特殊なDNA構造体です。これは染色体のごく一部が細胞のゲノムから切り離され、環状となって独立して存在するようになったと考えられています。特に、乳癌、肺癌、卵巣癌、大腸癌、そして小児がんで悪性度の高い神経芽細胞腫など、多岐にわたるヒトのがんで発見されており、これらの腫瘍の特性と深く関連していることが知られています。

構造的な特徴

二重微小染色体は、細胞核内に存在するにもかかわらず、実際の染色体のようにゲノムに組み込まれているわけではなく、独立した実体として存在します。その構造にはいくつかの明確な特徴があります。

まず、その形態は比較的小さな環状DNA断片です。一般的なヒトの染色体は直鎖状であり、非常に長いDNA鎖を含んでいますが、二重微小染色体は輪っかのような形をしており、サイズも通常数百万塩基対程度と比較的小規模です。

また、通常の染色体には、細胞分裂時に正確な分配を行うためのセントロメア（動原体）や、染色体の末端を保護するテロメアといった構造が不可欠ですが、二重微小染色体はこれらの主要な構造を欠いています。このセントロメアの欠如が、細胞分裂時におけるその特異な振る舞いに関係していると考えられています。

構造的には、二重微小染色体も通常の染色体と同様に、DNAがヒストンなどのタンパク質と結合して形成されるクロマチン構造をとっています。これにより、遺伝情報の保持や発現が可能となっています。細胞が分裂する際には、二重微小染色体もまた、細胞周期に合わせて核内で複製されます。ただし、セントロメアがないために、娘細胞への分配が不均等になりやすいという特徴を持つ場合があります。

機能とがんにおける役割

二重微小染色体の存在は、がん細胞の成長と生存にとって非常に有利な性質をもたらす重要なメカニズムと関連しています。その主要な機能は「遺伝子増幅」の場となることです。

多くの場合、二重微小染色体上には、細胞の増殖を異常に促進する特定のがん遺伝子や、抗がん剤に対する耐性に関わる遺伝子が複数コピー搭載されています。これらの遺伝子のコピー数が細胞あたり数百、あるいは数千にまで増幅されることがあります。二重微小染色体が細胞内で独立して複製されることで、これらの遺伝子のコピー数が効率的に増加するのです。

遺伝子のコピー数が増えるということは、その遺伝子から作られるタンパク質の量が増えることを意味します。例えば、細胞増殖に関わるがん遺伝子が増幅されれば、細胞は正常な制御を無視して無限に増殖する能力を高めます。また、薬剤耐性に関わる遺伝子が増幅されれば、その薬剤を分解したり、細胞外に排出したりするタンパク質が大量に作られるため、抗がん剤が効きにくくなります。

このように、二重微小染色体は、がん細胞がより攻撃的な性質を獲得し、治療に対して抵抗性を持つようになる上で、中心的な役割を果たします。その存在は、腫瘍の悪性度が高いことや、特定の治療法が効きにくいことの指標となる場合があり、臨床的にも注目されています。

二重微小染色体