二重橋事件

二重橋事件：皇居一般参賀での悲劇

1954年1月2日、新年の皇居一般参賀で、二重橋において群衆が将棋倒しになるという痛ましい事故が発生しました。この事故で17名（NHKとTBSの報道では16名）もの尊い命が失われ、多数の負傷者を出す大惨事となりました。

事件の概要

当日、皇居は朝から快晴に恵まれ、午前9時から午後3時までの一般参賀には38万人を超える人々が訪れました。皇族がバルコニーに立ち、国民の挨拶を受けるという恒例行事に対して、警備を担当したのは皇宮警察の皇宮護衛官と警視庁丸の内警察署の警察官、合わせて221名という少数でした。

午前9時、正門が開かれると、皇宮警察は正門外の石橋入口から約200メートル手前で参賀者を8列に並べ、列を維持したまま石橋を渡らせ、正門内の鉄橋へと誘導する計画でした。当初は順調に参入が進んでいましたが、午前11時頃から参賀者が急増し、列は自然に乱れ始め、群衆が石橋に殺到する事態となりました。

午前11時頃から、石橋の通過を整理するため、参入者を断続的に停止させながら入門させる措置が取られましたが、午後1時過ぎには皇居前の記帳所だけでなく、奥の橋や宮内庁庁舎前まで参賀者の人垣で埋め尽くされるという異常な状況となりました。午後1時50分頃には、現場は完全に混乱状態に陥りました。

皇宮警察は午前11時半頃に丸の内警察署に連絡し、警視庁予備隊の出動を要請しました。両警察は群衆整理用のロープを張って入門を制限しようとしましたが、石橋の上では後方からの圧力で前の人がロープに押し付けられるという状況が発生。そのため、自らロープを持ち上げて潜り抜ける人が続出し、30～40名が走り出したことでロープの高さが上がり、最前列の人々の首にロープが引っかかるという危険な状態になりました。

午後2時15分頃、警察官はロープを下げようとしましたが、なかなか下がらず、仕方なくロープが首にかからないように高く上げました。すると、ロープによる制止がなくなったことで70～80名が押し出され、その際に前方にいた高齢の女性が転倒。後続の参賀者が次々と折り重なるように倒れ込む、将棋倒しが発生しました。

警察官は直ちに救急車を要請し、人工呼吸などの応急処置を行いましたが、17名が死亡、82名が重軽傷を負うという悲惨な結果となりました。負傷者の内、13名が入院、30名が自宅療養、残りは軽傷でした。

事件後の対応

皇宮警察と警視庁は、この事件における警備上の欠陥を認めました。事件翌日の3日には、犬養健法務大臣、斎藤昇国家地方警察本部長、武末辰雄皇宮警察本部長、山口喜雄国警警備部長らが被害者を慰問しました。しかし、皇宮警察と警視庁の間では事件の説明に食い違いが見られ、責任の所在をめぐって互いに批判し合うような状況となりました。

宮内庁も行事の進め方に問題があったとして、香典を供え弔意を表したほか、昭和天皇と香淳皇后からも、死亡者には菓子と盛花、負傷者には果物のお見舞い品が下賜されました。

後日、群衆整理に問題があったとして、警視庁と皇宮警察本部の責任者9名が処分されました。この事件を教訓に、警察は雑踏警備を重視するようになりました。

また、この事件の取材において、日本放送協会（NHK）が初めてヘリコプターを使用しました。

事件の教訓と影響

二重橋事件は、大規模な群衆が集まる場所における警備の重要性を改めて認識させる出来事となりました。この事件を教訓に、警察は雑踏警備の体制を強化し、群衆事故の防止に向けた取り組みを進めることになりました。また、この事件は、警備体制だけでなく、行事の計画や運営においても、安全性を最優先に考慮する必要があることを示唆するものでした。

この悲劇は、単なる過去の出来事としてではなく、現代においても教訓として語り継がれるべきでしょう。群衆が集まる場所での安全確保は、常に意識し続けるべき課題です。

参考文献

国会会議録 (1954年1月29日). “第19回国会　衆議院　地方行政委員会　第8号　昭和29年1月29日”. 国会会議録検索システム. 国立国会図書館.
国会会議録 (1954年1月30日). “第19回国会　衆議院　地方行政委員会　第9号　昭和29年1月30日”. 国会会議録検索システム. 国立国会図書館.
国会会議録 (1954年2月4日). “第19回国会　参議院　地方行政委員会　第2号　昭和29年2月4日”. 国会会議録検索システム. 国立国会図書館.

関連項目

群集事故
まっぴら君 - 毎日新聞夕刊に連載されていた加藤芳郎の4コマ漫画。連載第1回（同年1月5日）での題材だった。

外部リンク

『昭和毎日』二重橋事件 - 毎日新聞社
参賀で死傷者多数 二重橋事件 - NHK放送史
【TBSスパークル】1954年1月2日 皇居参賀大惨事（昭和29年） - YouTube

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