五両判

天保五両判（てんぽうごりょうばん）

天保五両判は、天保8年（1837年）に鋳造が開始され、同年11月末に発行された額面五両の小判型金貨です。発行が天保年間のみであったため、天保五両判、または中判とも呼ばれます。

概要

表面には、鏨（たがね）で茣蓙（ござ）目が刻まれ、上下に桐紋を囲む扇枠があります。中央上部には「五兩」の文字、下部には「光次（花押）」の極印が打たれています。さらに、中央左右には丸枠の桐紋が配されています。裏面は、中央に花押、下部左端に座人の験極印、吹所の験極印が打たれ、右上には「保」の字が刻印されています。丸枠の桐極印を除き、基本的には小判と同様のデザインです。

特筆すべき点として、小判と同様に、座人・吹所の験極印の組み合わせが「大」「吉」である特製の献上判が存在します。また、裏面の「保」字の代わりに「天」字の極印が打たれた試鋳の五両判も確認されており、現在は造幣博物館に展示されています。

歴史的背景

享保大判以降、大判の鋳造が途絶えていた中、財政難に陥っていた大判座の救済策として、15代後藤真乗が銀遣いが中心の上方でも大金を扱う際に重宝されるだろうと考え、文政年間から幕府に鋳造を申し出て、ようやく実現したのがこの五両判でした。しかし、金座御金改役の後藤三右衛門光亨の権力が強く、一般の通貨であることを理由に、金座が鋳造担当を奪う形となりました。

大判とは異なり、一定の額面を持つ通貨として発行された天保五両判は、品位が高く、初期の慶長小判に匹敵するものでした。しかし、量目は天保小判の3倍に過ぎず、純金量も4.45倍程度であったため、幕府の財政難を補うための出目獲得が目的の名目貨幣であったと考えられています。天保12年までの時点で、吹高147,025両に対し、出目は36,390両に達しました。

この五両判の含有金量の小判に対する不足は、両替商などの商人にすぐに見抜かれ、市中での評判は非常に悪く、ほとんど流通しませんでした。結果として、短期間で少数の発行にとどまり、天保14年（1843年）8月17日までに他の保字金銀と共に鋳造が停止されました。天保の改革の行き詰まりから、弘化元年（1844年）に保字金銀の鋳造が再開された際にも、五両判については再開されることはありませんでした。このため、今日現存するものは非常に希少であり、状態の良いものが多く見られます。

安政3年（1856年）10月末をもって通用が停止され、五両の額面の通貨としては、江戸時代を通して唯一のものとなりました。

鋳造開始・品位・量目・鋳造量

鋳造開始: 天保8年（1837年）
品位: 高品位（初期の慶長小判に匹敵）
量目: 天保小判の約3倍
純金量: 天保小判の約4.45倍
鋳造量: 少数

参考文献

『日本の貨幣』

関連項目

天保大判
天保小判
天保丁銀
一分銀
二朱判
天保通寳

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