五十子の戦い

五十子の戦い（いらこのたたかい / いかごのたたかい）

五十子の戦いは、室町時代中期に勃発した享徳の乱において、古河公方足利成氏方と関東管領上杉氏方との間で繰り広げられた重要な合戦です。武蔵国五十子（現在の埼玉県本庄市五十子）周辺を舞台に、長禄3年（1459年）から文明9年（1477年）まで断続的に戦闘が繰り返された一連の軍事衝突を指しますが、特に文明9年（1477年）の大規模な戦闘を指す場合もあります。

戦いの背景

享徳3年（1454年）に始まった享徳の乱は長期化の様相を呈していました。一度は関東管領上杉氏に追い払われた足利成氏が、下総国古河御所を拠点として反攻を開始したことで、関東地方は利根川を挟んで東西に勢力が二分されます。東側は古河公方方、西側は関東管領方が支配する形となりました。特に北関東では、古河公方方が下野国方面から上杉氏の拠点である上野国を圧迫し、南関東では上杉氏方が武蔵国方面から古河公方の拠点である下総国を圧迫していました。このような状況下で、両陣営にとって中間地点にあたる利根川中流域を制圧することは、相手方の軍事的圧力を軽減する上で極めて重要な意味を持っていました。

康正2年（1456年）9月17日には、既に利根川沿いの武蔵国岡部原（現在の埼玉県深谷市（旧岡部町））で両軍が衝突しています。この頃、利根川流域では忍城、深谷城、関宿城といった城郭が次々と築かれ、戦略的な要衝としての重要性が高まっていました。

最初の激突：太田庄の戦いと五十子陣構築

長禄3年（1459年）、関東管領上杉房顕は五十子に城砦を築き、持朝、房定、教房、政藤ら一族の主要な武将を集結させました。これを知った足利成氏は、五十子を攻撃するために出陣します。同年10月14日、両軍は五十子の近くの太田庄（現在の埼玉県熊谷市）で激しく交戦しました。この戦いで上杉軍は上杉教房が戦死するなど大きな損害を被ります。

しかし、翌日、上野の岩松家純・持国が上杉軍に加勢するとの報を得た上杉房定・政藤は態勢を立て直し、利根川を渡って上野側に陣を張っていた古河公方軍に対し、羽継原（現在の群馬県館林市）・海老瀬口（同板倉町）で攻撃を仕掛けますが、再び敗北を喫しました。上杉軍は大打撃を受けましたが、古河公方軍も撤退したため、五十子は上杉軍の手に保持されました。これにより、房顕は五十子を本拠地として長期の対陣に備える姿勢を示し始めます。

なお、この時期、室町幕府は五十子へ援軍を派遣する計画がありましたが、斯波義敏が内乱（長禄合戦）を起こし、その責任を問われて追放されたため、計画は中止となりました。

堀越公方と房顕の死

その頃、上杉氏の要請により、室町幕府将軍足利義政の異母兄・政知が新たな鎌倉公方となるべく伊豆まで下向していました。しかし、政知を受け入れるかどうかで上杉一族の意見がまとまらず、政知は伊豆堀越に留まって堀越公方を名乗っていました。政知に仕えていた上杉政憲（氏憲の孫、上杉教朝の子）は、足利成氏を排斥することが政知の鎌倉入りへの最大の説得材料となると考え、寛正6年（1465年）に伊豆から出陣し、関東管領上杉房顕や越後守護上杉房定、その子顕定と合流するために五十子へと向かいます。

幕府は駿河の今川義忠、甲斐の武田信昌の両守護にも政憲救援を命じましたが、援軍の到着前に上杉軍を叩こうとした古河公方軍は再び太田庄から五十子に進出しました。しかし、翌文正元年（1466年）2月12日に上杉房顕が五十子で急死します。子供がいなかったため、急遽顕定を養子として関東管領職を継承させました。この事態により、戦闘は一時的に休戦となりました。

長期対陣と五十子城の陥落

その後も、古河公方軍と上杉軍は五十子で睨み合いや小競り合いを続けながら、関東各地で一進一退の攻防を展開していました。しかし、文明5年（1473年）に関東管領家の山内上杉家の家宰であった長尾景信が死去し、続いて扇谷上杉家の上杉政真が五十子での戦闘で古河公方軍に討たれるという事態が立て続けに発生すると、状況は急変します。家宰職を継げなかった景信の子・長尾景春は、山内上杉家当主の顕定を恨み、足利成氏方に寝返って挙兵しました（長尾景春の乱）。

文明8年（1476年）、景春は山内上杉軍が駐留する五十子陣を包囲しました。この時、堀越公方軍と扇谷上杉軍の主力を率いていた上杉政憲と太田道灌が、今川氏の内紛仲裁のため駿河国に出兵していたため、顕定は十分な援軍を得られませんでした。そして翌文明9年（1477年）1月18日（新暦2月1日）、ついに五十子城は陥落し、顕定はかろうじて上野国へ逃げ延びました。これにより、長年にわたって維持されてきた五十子の陣は解体されたのです。

その後、景春の反乱を鎮圧する上で中心的な役割を果たしたのは、扇谷上杉家の当主上杉定正を補佐する太田道灌でした。道灌の活躍と扇谷上杉家の台頭を見た顕定は、その勢力拡大を懸念し、足利成氏との和睦を模索するようになります。こうして、戦局は山内・扇谷両上杉家の対立という新たな構造へと変化し始めていったのでした。

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