五所車菊太郎

五所車 菊太郎（ごしょぐるま きくたろう）は、明治時代の相撲界で活躍した力士です。本名を佐久間 菊太郎といい、1870年3月1日（明治3年1月29日）に現在の千葉県いすみ市にあたる夷隅郡江場土村で生を受けました。その生涯は1925年4月3日に閉じられるまで、力士として、また角界を支える年寄、世話人として歩んだ道のりでした。最高位は東前頭8枚目です。

五所車は、現在の東京相撲に上がる前に、京都相撲での経験を持つという珍しい経歴を持っています。その後、東京へ活動の場を移し、宮城野部屋、勝ノ浦部屋に所属しました。初めて本場所の土俵を踏んだのは、明治29年（1896年）1月のことです。当時の相撲界は今以上に厳しい徒弟制度の中で、力士が番付を駆け上がるには長い年月と並々ならぬ努力が必要でした。五所車もまた、地道な稽古を重ね、番付を上げていきました。

初土俵から10年後の明治39年（1906年）1月、ついに十両へ昇進を果たします。そして翌明治40年（1907年）1月場所では、高見山酉之助らと共に新入幕を果たしました。この時、五所車は数え年で37歳という異例ともいえる高齢でした。一般的に力士の最盛期とされる年齢をはるかに過ぎてからの幕内昇進は、その粘り強さや弛まぬ努力の証と言えるでしょう。

しかしながら、幕内での道のりは長くはありませんでした。幕内在位はわずか4場所。この間、7勝6敗という成績を残し、他に4回の休みと3回の引分預かりという記録が残されています。明治46年（1913年）5月場所限りで、現役力士としてのキャリアに終止符を打ちました。五所車はすでに年寄「宮城野」を襲名し、二枚鑑札として力士と年寄を兼務していました。引退後は、年寄として相撲協会の運営や後進の指導に専念することとなります。

年寄「宮城野」としては、第6代にあたります。当時の相撲部屋経営や弟子の育成など、年寄としての具体的な活動内容は詳細には伝わっていませんが、力士時代とは異なる立場で角界を支えました。ところが、大正5年（1916年）1月には年寄を廃業するという選択をします。そして、その後は角界の裏方として、世話人という立場で相撲に携わり続けました。世話人は力士や親方とは異なり、本場所の進行補助や会場設営など、円滑な興行を支える重要な役割を担います。五所車は生涯を通じて相撲と深く関わり続け、最晩年まで世話人として角界に尽くしました。

力士としては「御所車」から「五所車」へと改名しています。若い頃から長年にわたり厳しい稽古に耐え、晩成型として幕内まで辿り着き、引退後も角界の発展に貢献した五所車菊太郎。その存在は、明治後期から大正初期にかけての相撲界の一断面を今に伝えています。1925年に55歳でその生涯を終えました。

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