五野井隆史

五野井隆史（ごのい たかし）は、1941年6月11日に北海道幌泉郡えりも町に生まれた、日本の著名な歴史学者です。特に日本キリシタン史の研究を専門分野とし、長年にわたり学界を牽引してきました。東京大学名誉教授の称号を持ち、政治学者の五野井郁夫氏は長男にあたります。

経歴

五野井氏は、五野井貞蔵とミチ夫妻の四男として北海道で誕生しました。学業は上智大学に進み、1965年（昭和40年）に文学部を卒業。さらに同大学大学院文学研究科日本史学専攻の博士課程で学び、1971年（昭和46年）に単位取得満期退学しました。同年4月からは東京大学史料編纂所に勤務。研究者としてのキャリアを本格的にスタートさせました。

国際的な視点を深めるため、1974年（昭和49年）2月からは文部省の在外研究員として2年間、ポルトガル、スペイン、イタリアに派遣され、現地の史料調査などを行いました。帰国後の1982年（昭和57年）4月には東京大学助教授に就任。研究者としての地位を確立していきます。1987年（昭和62年）には、長年の研究成果をまとめた学位論文「徳川初期キリシタン研究」により、九州大学から文学博士号を取得しました。1993年（平成5年）4月には東京大学教授に昇任し、多くの後進の指導にあたりました。

2003年（平成15年）、東京大学を定年退官した後は、英知大学教授として教鞭を執りました。その後、聖トマス大学での勤務を経て、2012年（平成24年）に同大学を退職し、教育・研究活動の一線から退かれました。

研究と業績

五野井氏の研究は、日本のキリシタン史、特に江戸時代初期の迫害期におけるキリスト教の受容と弾圧、信仰の実態、そしてキリシタンたちの生活や文化に深く焦点を当てています。その緻密な史料分析に基づいた研究は、学界で高い評価を得ています。博士論文を基にした『徳川初期キリシタン史研究』は、この分野の基礎となる重要な著作です。

日本キリスト教全体の歴史を体系的にまとめた『日本キリスト教史』は、通史として広く読まれています。また、キリシタンゆかりの人物に光を当てた著作も多く、豊臣秀吉・徳川家康時代の殉教者であるペトロ岐部カスイ、江戸時代初期に欧州へ渡った支倉常長、そして日本の布教に尽力したイエズス会宣教師ルイス・フロイスなど、歴史上の重要人物に関する詳細な研究は、それぞれの人物像を深く理解する上で欠かせない業績となっています。その他にも、『大航海時代と日本』、『キリシタンの文化』、『島原の乱とキリシタン』など、多角的な視点からキリシタン史を論じています。

主な著書

『徳川初期キリシタン史研究』吉川弘文館、1983年 (補訂版 1992年、オンデマンド版 2013年)
『日本キリスト教史』吉川弘文館、1990年
『ペトロ岐部カスイ』大分県教育委員会 1997年／教文館 2008年
『日本キリシタン史の研究』吉川弘文館、2002年
『人物叢書'>[支倉常長]』吉川弘文館、2003年
『大航海時代と日本』渡辺出版、2003年
『キリシタンの文化』吉川弘文館、2012年
『島原の乱とキリシタン 敗者の日本史14』吉川弘文館、2014年
『キリシタン信仰史の研究』吉川弘文館、2017年
『ルイス・フロイス（人物叢書）』吉川弘文館、2020年

監修・共著ほか

『長崎県の歴史 県史』瀬野精一郎・新川登亀男・佐伯弘次・小宮木代良共著、山川出版社、1998年
『旅する長崎学』全4巻 長崎県企画、デ・ルカ・レンゾ・片岡瑠美子共監修、長崎文献社、2006年
『う〜こんどのと歩く高山右近ガイドブック』監修・女子パウロ会、2016年
『キリシタン大名 布教・政策・信仰の実相』監修・宮帯出版社、2017年

五野井隆史氏の業績は、日本の近世史、特に宗教史研究において重要な位置を占めています。その研究成果は、現在も多くの研究者や歴史愛好家に読まれ、日本のキリシタン史理解に不可欠なものとなっています。

関連項目：五野井郁夫

もう一度検索