井上尚弥 対 ルイス・ネリ戦

井上尚弥 対 ルイス・ネリ戦の全貌

2024年5月6日、東京ドームは34年ぶりにボクシングの熱気に包まれました。WBA・WBC・IBF・WBO世界スーパーバンタム級統一王者である井上尚弥が、WBC世界同級1位のルイス・ネリを迎え撃つタイトルマッチは、単なる試合以上の意味を持つ歴史的な一戦となりました。東京ドームでのプロボクシング興行は、1990年2月11日のマイク・タイソン対ジェームス・ダグラス戦以来のことであり、日本人ボクサーがメインイベントを務めるのは史上初という快挙です。後楽園球場時代を含めると、1960年8月29日のデビー・ムーア対高山一夫戦以来、実に63年8ヶ月ぶりの出来事でした。国内のドーム球場での開催も、1999年8月29日のウィラポン・ナコンルアンプロモーション対辰吉丈一郎戦以来、24年8ヶ月ぶりという稀なイベントでした。

試合までの経緯

この試合に至るまでの道のりは、両者の軌跡が複雑に絡み合ったものでした。ネリは2020年9月にWBC世界スーパーバンタム級王座を獲得し、世界2階級制覇を達成しましたが、2021年5月にはブランドン・フィゲロアとの王座統一戦でKO負けを喫し、王座から陥落。その後、2023年2月にアザト・ホバニシャンとの挑戦者決定戦に勝利し、スティーブン・フルトンへの挑戦権を得ました。一方、井上は2023年7月にフルトンをTKOで破り、WBC・WBO王座を獲得、世界4階級制覇を成し遂げました。

2023年11月にはWBCが井上とネリの指名試合を命じ、同年12月には井上がマーロン・タパレスをKOで下し、史上2人目となる2階級4団体統一王者となりました。井上が勝利した直後、ネリはSNSで対戦を表明し、大橋ジムの関係者も2024年5月上旬の東京ドーム開催を示唆しました。交渉を経て、2024年1月には両者の対戦が合意に至ったと報道されました。また、ネリは過去のトラブルで日本での活動を停止されていたが、2024年2月にはライセンス申請資格が回復しました。

対戦決定後の概要から試合まで

2024年3月6日、両者のタイトルマッチが正式に発表され、アンダーカードとして井上拓真、ユーリ阿久井政悟、ジェイソン・モロニーの世界戦も同時に開催されることが決定しました。1つの興行で4つの世界戦が行われるのは史上初の試みです。会見でネリは過去の過ちを謝罪し、節制して試合に臨むことを誓いました。井上はネリの反省モードに戸惑いつつも、試合への集中力を高めました。試合順は、兄弟での連戦を避けるため、井上兄弟の試合が別々になるように調整されました。

井上は3月25日にスパーリングを行い、順調な仕上がりをアピール。4月にはネリが筋力トレーニングの動画を公開しました。試合1ヶ月前には井上が「凄く良い仕上がり」とコメント。ネリは「井上は過大評価されている」と挑発的な発言を繰り返し、早期決着への自信を覗かせました。また、JBCから活動停止処分を受けていたことについては「全く気にしていない」とし、自身が井上と戦うことで「もうかるから」ではないかと発言しました。井上はネリの発言に対し「そっちのネリが本物ですよね」と呆れました。

4月10日には井上が公開練習を行い、誕生日を祝われました。ネリがWBCの1ヶ月前計量をパスしたことも明らかになりました。WBCはメインイベントの勝者にダイヤモンド王座を贈呈することを発表しました。4月18日、井上がメキシコ人とのスパーリングを打ち上げ、翌日にネリのインタビュー内容に対し「４年半前の片目で戦っていた試合を参考にしているのなら大きな間違いだな。。。」とSNSに投稿しました。4月19日にネリがWBCの試合14日前体重チェックをクリアしました。4月21日、ネリが来日し、井上を「パウンド・フォー・パウンドランキングで1位だとは思わない」と語りKO宣言をしました。

4月24日、ネリは「井上は過大評価されている」と語り、リングで死ぬ覚悟で挑むと宣言しました。4月29日、両者ともWBC規定の7日前計量をクリア。5月4日、最終記者会見で井上がKO宣言、ネリもKO勝利を誓いました。5月5日の前日計量では、両者ともリミットをクリアしましたが、グローブに関する異例のトラブルが発生し、ネリが使用予定のグローブのサイズが小さいと指摘されたため、急遽、別のグローブが用意されることになりました。そして5月6日、ついに決戦の火蓋が切られました。

試合当日

井上は6回1分22秒TKO勝ちを収め、WBC・WBO王座は2度目、WBA・IBF王座の初防衛、そしてWBCダイヤモンド王座の獲得に成功しました。試合後、井上は1ラウンドにプロ初のダウンを喫したものの、冷静に対応し、最終的にKOで勝利したことについて、「自分の中でひとつのいいキャリアを築けた」と語りました。一方、敗れたネリは病院へ向かい、会見を欠席しましたが、「私は元気です」とSNSで発信しました。翌日、井上は横浜市内のジムで会見を開き、「大橋ボクシングジム30周年という年に東京ドームでやれたのは、大橋ジムとしても井上尚弥としても集大成ではなく、今後のキャリアを加速させる一戦だと思う」と今後の抱負を語りました。

次戦へ向けて

この試合を観戦していたIBF・WBO世界スーパーバンタム級1位のサム・グッドマンは、試合後の井上の勝利インタビューで、次戦の対戦相手としてリングに上がり、井上も9月頃に防衛戦を行いたいと発言しました。しかし、グッドマンは7月10日にチャイノイ・ウォラウトと対戦することが決定し、井上との対戦は先送りになりました。一方、WBAは井上に対して、WBA世界スーパーバンタム級1位のムロジョン・アフマダリエフとの指名試合を命じました。その後、井上の次戦は今回の試合のリザーブカードに出場したテレンス・ジョン・ドヘニーとの対戦が有力になりました。

対戦カード

WBA・WBC・IBF・WBO・リングマガジン世界スーパーバンタム級タイトルマッチ、WBC世界スーパーバンタム級ダイヤモンド王座決定戦：井上尚弥 vs ルイス・ネリ
WBO世界バンタム級タイトルマッチ：ジェイソン・モロニー vs 武居由樹
WBA世界バンタム級タイトルマッチ：井上拓真 vs 石田匠
WBA世界フライ級タイトルマッチ：ユーリ阿久井政悟 vs 桑原拓
スーパーバンタム級8回戦：テレンス・ジョン・ドヘニー vs ブリル・バヨゴス

採点表

ルール：フリーノックダウン制
その他：インスタントリプレー採用、ドーピング検査はVADA採用
グローブ：井上尚弥はウイニング社製、ルイス・ネリはウイニング社製のグローブを使用

試合の詳細

試合では、5回の体重測定とドーピングテストが義務付けられました。過去に山中慎介と2度対戦したネリは、過去にドーピング問題と体重超過を起こしており、WBCは厳格な体重測定とドーピング検査を義務付けました。JBCもWBCと協力し、徹底したドーピングテストを実施し、ネリはVADAによる抜き打ち検査で陰性でした。また、WBC規定の事前計量も全てクリアし、水抜きなど無理な減量はせず、試合2日前までに全ての計量をクリアしました。ネリは山中戦で犯した体重超過について、「栄養士に任せたが結局失敗した」と告白しました。

山中慎介とネリの因縁

試合前日の会見では、元WBC世界バンタム級王者の山中慎介がネリに挨拶し、ネリは過去の過ちを謝罪しました。井上は「過去の因縁は持ち込まない」と発言しました。山中も井上の試合を「ひとつの試合」として捉えてほしいと語りました。山中は「あの時のことがどうしても蘇ってくる」と率直な思いを吐露し、井上の勝利を称えました。

ネリの減量苦

ネリは過去に「オレオをたくさん食べる」など、食生活に問題を抱えており、減量に苦労した経験を告白していました。ブランドン・フィゲロア戦でも、試合直前まで大幅な体重超過があり、下剤を使って減量した過去があります。

リングアナウンサー

リングアナウンサーを務めたのは、ジミー・レノン・ジュニアであり、同日にサウル・アルバレス対ハイメ・ムンギアの試合も担当し、その後東京へ移動しました。

インスペクター

お笑いトリオ・ロバートのメンバー山本博がJBCのインスペクターとして試合に関わったことも話題となりました。

入場

ネリの入場時にはブーイングが飛び交い、井上の入場時にはギタリストの布袋寅泰がサプライズで生演奏を行い、会場を盛り上げました。

チケット

チケットは高額ながらも完売し、試合当日は43,000人の観客が会場に集まりました。

来場者

三原じゅん子、魔裟斗、那須川天心、霧島鐵力、小祝さくら、中川翔子、渋谷龍太、猫ひろし、HIKAKINなどの著名人が観戦に訪れました。

放送

試合は、多くのメディアで放送されました。

脚注

詳細な試合情報は、以下の脚注にて確認できます。

関連項目

関連する試合や人物の情報は、関連項目を参照してください。

外部リンク

試合の公式情報や結果は、外部リンクにて確認できます。

もう一度検索