井伊直安

井伊直安：越後与板藩最後の藩主の生涯

井伊直安は、越後与板藩の第10代にして最後の藩主です。彦根藩主・井伊直弼の四男として江戸で生まれました。生年は嘉永4年（1851年）2月11日とされていますが、弘化4年（1847年）とする説もあります。

文久2年（1862年）、先代藩主・井伊直充の死去直前に養嗣子となり、同年に家督を相続しました。元治元年（1864年）12月には叙任、慶応3年（1867年）2月には右京亮に叙任されています。

慶応4年（1868年）の戊辰戦争では、官軍に加わり功績を挙げました。明治2年（1869年）6月、版籍奉還により知藩事となり、藩政改革に着手しました。戊辰戦争の影響で一時閉校となっていた藩校・正徳館を再興し、藩士の子弟だけでなく、領民全体への教育を推進しました。経済的な理由で学ぶことが困難な者に対しても、寄宿を許可するなど、広く教育の機会を保障する施策を行いました。

明治4年（1871年）7月の廃藩置県により与板県が設置されると、直安は免官となり東京に移りました。その後、慶應義塾を卒業し、明治5年（1872年）12月20日には兄の井伊直憲（元彦根藩主）と共に欧米を視察しました。

帰国後も、政治活動に携わりました。明治17年（1884年）7月には華族令により子爵に叙せられ、明治29年（1896年）1月8日には貴族院の議員に選出されました。研究会に属し、大正9年（1920年）12月3日まで議員として活動しました。

直安は、優れた芸術的才能も持ち合わせていました。日本画と洋画の両方を嗜み、特に洋画では小山正太郎を師事するなど、高い技量を誇っていました。現在も、世田谷区の指定有形文化財となっている、裃姿の井伊直弼の肖像画は、直安が描いた作品として知られています。これは、9歳で父を暗殺事件で失った直安が、後年記憶を頼りに描いたとされています。

明治30年（1897年）には正三位、大正11年（1922年）7月には従二位に昇叙されました。同年11月9日、長男の直方に家督を譲り隠居。昭和10年（1935年）8月25日、85歳で亡くなりました。生前より、父・直弼と同じ豪徳寺への埋葬を希望していたため、同寺に墓が造られています。

直安の墓碑には、「有安院殿惇德厚堂大居士」、「從二位勳三等井伊直安公墓」、「昭和十年八月二十五日薨」と刻まれています。

彼の生涯は、藩主としての政治活動、教育への貢献、芸術活動、そして父への深い愛情など、多様な側面から見て取れる、波乱に満ちたものでした。その功績は、現在もなお語り継がれています。

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