裃

裃（かみしも）の概要と歴史

裃（かみしも）は、日本の伝統的な男子の正装で、和服の一つです。主に「肩衣」（かたぎぬ）という袖の無い上衣と、「袴」を組み合わせて形成されます。通常、肩衣と袴は同じ生地で仕立てられ、四つの箇所に紋が施されています。この衣服は、上半身を肩衣で覆い、下半身には袴を履くスタイルが特徴的です。裃の名称は、このように上下を一揃いにしたことに由来しますが、肩衣と袴が異なる色や生地の「継裃（つぎかみしも）」も存在します。

歴史的背景

裃は、室町時代にその起源を持ち、江戸時代に至るまで武士の正式な服装として重宝されてきました。当時、百姓や町人たちも礼服や平服としてこれを着ることが一般化し、現在でも伝統行事や祭りにおいて重要な役割を果たしています。公家の人々もこの姿を日常的に取り入れており、裃は広く浸透した文化の一環です。元々、「上下」と書かれていたこの衣装は、江戸時代に「𧘕𧘔」と表記され、その後「裃」と合字化されました。

袖の無い肩衣は、近世以前から庶民の作業着として使われていた既存のスタイルから派生していると考えられています。裃の特殊なデザインの起源は不明ですが、室町幕府の将軍が内野合戦で即席の軍服として用いたとの伝承や、松永久秀や近衛前久が実践したという説もあります。文献によると、天文時代（1532年～1555年）には、すでにこのスタイルが一般的だったとされています。

裃の構造とスタイルの発展

本来、裃は素襖（すおう）から袖と胸紐を省いた形状から生まれたと言われていますが、その後肩衣の胸部分に襞を加え、袴に裾を差し込む形に変化しました。また、江戸時代中期には肩幅を広くしたデザインが流行し、元禄年間にはこの寸法が定着しました。肩衣の製作においては、鯨ひげを用いて肩を補強する仕立て方も登場し、時代が進むにつれて装飾とデザインが多様化しました。

紋章の配置については、肩衣の背中や両胸、袴の腰板と相引位置に施されていましたが、江戸時代が進むにつれて相引位置の紋は省略される傾向にありました。また、袴の長さについても、大名や御目見以上の旗本は長袴を着用する習慣が生じ、これが「長裃」と呼ばれました。下に着る小袖は、正式には熨斗目や帷子であることが決定され、色合いにも身分による差が溢れていました。

古くは木綿で仕立てられた裃も存在しましたが、後に麻や絹が主流となり、特に三重県津市の麻製肩衣が有名でした。宝暦年間あたりには、江戸城内での大名たちの小紋競争も活発になり、裃の装飾が更に精巧さを増していきます。

幕末以降の裃

しかし、幕末に入ると裃に代わり、羽織袴が日常の服装へと変化し、明治維新以降、裃は公的な場での着用が縮小されました。以降、現在でも伝統芸能や祭礼など特定の場面で姿を見せることはあれど、普段着としての裃は廃れてしまいました。裃は、長い歴史の中でさまざまな形や着方、文化的な価値を反映しつつ、日本の伝統衣装の象徴的存在として位置づけられています。

裃の種類

裃にはいくつかの種類があります。

• - 半裃（はんかみしも）: 一般的な裃で、袴の丈が通常のものです。礼服として使用され、庶民は冠婚葬祭に用いることが多かったです。
• - 長裃（ながかみしも）: 袴の丈が通常の裃の1.5倍程度に伸びており、より格式のある礼装です。歌舞伎の舞台衣装には、見栄えのためにさらに長い袴が使われることもあります。
• - 継裃（つぎかみしも）: 肩衣と袴が異なる素材や色で仕立てられた裃で、普段はあまり着用されませんが、江戸時代の公家も日常的に着用していました。

特に江戸時代の浄瑠璃や長唄で用いられる際には、袴の代わりに肩衣に「前垂れ」を付けることが一般的でした。

裃は、今日でも日本の我々の文化や芸術に深く根付いており、その存在は古き良き日本の象徴であり続けています。

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