亜庭じゅん
亜庭じゅん(あにわ じゅん、本名:松田 茂樹、
1950年8月31日 - 2011年
1月21日)は、日本の
漫画評論家であり、批評集団「迷宮」の中心人物として知られています。
愛知県名古屋市出身で、愛称は「あにじゅん」。
同人誌即売会「
コミックマーケット」の創設にも深く関わり、日本の
漫画文化に大きな足跡を残しました。
生涯
1950年、亜庭じゅんは
名古屋市昭和区で生まれました。1969年には
京都大学文学部仏文科に入学し、
京都市左京区一乗寺で下宿生活を始めました。大学在学中の1971年、
漫画雑誌『COM』に読者投稿をきっかけに、「亜庭じゅん」のペンネームで
漫画評論活動を開始します。1972年には、
同人誌活動を通じて高宮成河と出会い、意気投合。1973年には、高宮成河と共に
漫画同人誌『空飛ぶまんが―あっぷる・こあ』に
漫画状況論「薄明の現在」を共同執筆しました。
1973年5月には、サークル「構雄会」から評論誌『まんがジャーナル』を創刊。1974年に
東宝株式会社に入社し上京。その後、高宮成河の紹介で原田央男らと出会い、批評集団「迷宮'75」を発足。亜庭は、迷宮において「マニア運動体論」を構築し、機関誌『
漫画新批評大系』の主筆・編集人を務めました。1975年には、
米沢嘉博らと共に日本初の
同人誌即売会「
コミックマーケット」を立ち上げました。
「
コミックマーケット」が拡大するにつれて、亜庭はそこから距離を置くようになり、
1980年には創作
漫画専門の
同人誌即売会「まんが・ミニ・マーケット」を開催。
1981年には「MGM」(まんが ギャラリー&マーケット)と改称し、規模拡大よりも、
同人誌がやり取りされる「場」としてのあり方を重視しました。1983年7月を最後に評論活動から離れ、
漫画創作とMGMの開催に専念しました。「MGM」は「
COMITIA」の拡大とは対照的に規模を縮小していきましたが、亜庭は最後まで独自のスタイルを貫きました。
2008年には
石ノ森章太郎の『竜神沼』に解説を執筆。これが評論家としての最後の仕事となりました。
2011年
1月21日、亜庭じゅんは肝臓癌のため死去。享年60歳。同年暮れには遺稿集『亜庭じゅん大全』が刊行され、彼の業績がまとめられました。亜庭の死後も「MGM」は開催され、100回目をもって終了しましたが、現在は「MGM2」として新たな体制で引き継がれています。
人物像
亜庭じゅんは、
漫画創作、ゲーム、読書、音楽鑑賞を趣味としていました。特に
少女[[漫画]]を深く愛しており、最も好きな
漫画家として樹村みのりを挙げています。妹が読んでいた
少女[[漫画]]雑誌に夢中になったことが、
少女[[漫画]]への感性を培うきっかけになったと述べています。
東宝では、試写室で映画を観ながら劇場用パンフレットの作成業務に従事していました。時間にルーズな一面がありましたが、定年まで勤め上げました。原田央男は、亜庭を「迷宮に運動体としての輪郭を与えた理論的指導者」と評する一方で、「ものぐさで無愛想、シャイな性格」と語っています。服装や外見には無頓着で、高宮成河からは「正体不明のホームレスファッション」と評されていました。
音楽はクラシックを愛好し、特に指揮者の
ヴィルヘルム・フルトヴェングラーを敬愛していました。オーディオ機器やレコード収集にも情熱を注ぎ、自室は本とレコードで埋め尽くされていたそうです。
関西時代の同人仲間は、亜庭の文章を「ペダンチックでレトリックな雰囲気を持つ」と評しつつも、雑談時の内容は「諧謔性に溢れたアイロニカルなもの」だったと述べています。また、笑い上戸であり、迷宮の集会ではいつも明るい声で話し、よく笑っていたと、高宮成河が回想しています。
業績と影響
亜庭じゅんは、
漫画評論家として、また「迷宮」の中心人物として、日本の
漫画文化の発展に大きく貢献しました。特に、
同人誌即売会という新たな文化を創出した「
コミックマーケット」の設立は、
漫画ファンの交流や創作活動を大きく促進しました。また、「MGM」では、
同人誌の市場としての側面だけでなく、コミュニケーションの場としての可能性を追求し続けました。
彼の思想や活動は、現在も多くの
漫画家や批評家、そして
漫画ファンに影響を与え続けています。亜庭じゅんの遺稿集『亜庭じゅん大全』は、彼の
漫画評論や創作活動を包括的に知る上で貴重な資料となっています。
関連書籍
高宮成河/原田央男編『亜庭じゅん大全―A LONG LONG STORY』(迷宮'11『漫画新批評大系』Vol.16、2011年、自費出版)
参考文献
霜月たかなか『
コミックマーケット創世記』(
2008年12月30日発売、
朝日新書、
ISBN 978-402273250-7)
* ティアズマガジン VOL.95(2011年
2月13日発売、
COMITIA実行委員会)