米沢嘉博

米沢嘉博（よねざわ よしひろ）

米沢嘉博は、1953年3月21日に熊本県熊本市で生まれ、2006年10月1日に53歳で亡くなった日本の漫画評論家、大衆文化評論家、編集者です。彼は、コミックマーケット準備会の第2代代表を務め、有限会社コミケットの取締役社長、日本マンガ学会の理事、手塚治虫文化賞の選考委員、日本オタク大賞の審査員など、数々の要職を歴任しました。また、「おたく四天王」の一人としても知られ、その愛称は「米やん」でした。

生い立ちと学生時代

米沢は、食糧庁に勤務する父のもと、2人の兄弟姉妹の長男として育ちました。幼少期から漫画に親しみ、近所の貸本屋に入り浸る日々を送りました。手塚治虫や水木しげるの作品に大きな影響を受け、中学時代には同人活動を開始。同人サークル「アズ漫画研究会」で自身の漫画を発表しました。熊本県立熊本高等学校時代には学生運動にも参加し、米軍原子力空母の入港反対闘争で火炎瓶を投げたこともあります。また、高校時代にはSFサークル「九州SFファングループ」に参加し、後のSF作家・梶尾真治との親交を深めました。

コミックマーケットとの関わり

1972年、明治大学工学部に入学し上京。大学ではSF研究会に所属し、漫画研究会には属しませんでしたが、漫画への情熱は持ち続けました。大学在学中には漫画批評集団「迷宮」の設立に参加し、1975年からコミックマーケットの企画・開催に携わりました。1980年から2006年までコミックマーケット準備会の代表を務め、その発展に大きく貢献しました。また、黎明期のコミックマーケットで活動していた漫画家・吾妻ひでおのファンとしても活動し、「大日本吾妻漫画振興会」を主宰しました。

準備会が独立した組織になったのは、米沢が代表になってからです。1985年には株式会社コミケット（後に有限会社、特例有限会社）を設立し、米沢が社長を兼務しました。彼のリーダーシップのもと、コミックマーケットは飛躍的な発展を遂げ、サークル数は100倍にまで拡大しました。

評論家としての活動

米沢は、大学在学中から漫画雑誌の編集やライターとしても活動し、同人誌『漫画新批評体系』で漫画評論を展開しました。『劇画アリス』誌の編集にも携わり、その後は『マンガ奇想天外』の編集者となりました。『戦後少女マンガ史』『戦後SFマンガ史』『戦後ギャグマンガ史』といった戦後マンガ史三部作は、彼の代表作として知られています。これらの著作により、漫画評論は世間から注目を集めるようになり、米沢は漫画評論家としての地位を確立しました。また、『藤子不二雄論 FとAの方程式』で第26回日本児童文学学会賞を受賞しています。

彼は漫画のコレクターとしても知られており、多くの貴重な資料を収集しました。コレクターにありがちな偏屈さはなく、人から信頼される性格でした。また、漫画の知識は非常に豊富で、関係者から「漫画の百科事典」と評されるほどでした。

米沢嘉博記念図書館

2008年、母校の明治大学が、米沢の蔵書の一部を受け入れ、漫画資料の記録保存所として「米沢嘉博記念図書館」を開設しました。この図書館は、漫画研究の重要な拠点となっています。

表現の自由と自主規制

米沢は、表現の自由を尊重し、コミックマーケットでは批判者を排除しない姿勢を貫きました。また、表現規制に対しては一貫して批判を行いました。しかし、コミックマーケットの運営においては、性器の修正について自主規制を敷くなど、柔軟な対応も見せました。これは、コミックマーケットという場を存続させるために、無理を避けた結果だと考えられています。

人物像

米沢は、自己主張をせず、異なる意見を持つ人も排除しない人物でした。趣味は釣りと古本収集で、タバコとコーヒーとコーラを愛しました。また、アメリカのパルプ・マガジンやアメコミなどの収集家でもあり、『アメリカB級グッズ道』という著書もあります。自分の容姿に自信を持っていて、「僕の美しい顔」が口癖のナルシストでもありました。しかし、大のニンジン嫌いで、食卓にニンジンがあることを極端に嫌いました。

晩年と死

2006年2月に肺に影があると診断され、7月には肺癌を告知されました。病状が悪化する中でも、8月のコミックマーケット70には参加しました。2006年9月30日にコミックマーケット準備会代表を退任し、翌10月1日に53歳で亡くなりました。彼の死後、コミックマーケットでは黙祷が捧げられ、ファン活動による功績を讃え、第38回星雲賞特別賞を受賞しました。

米沢嘉博は、日本の漫画文化に大きな足跡を残した人物として、今もなお多くの人々に敬愛されています。

その他の筆名

米沢嘉博は、阿島俊（あじま しゅん）という別名義も使用しました。この名前は、吾妻ひでおを評論する際に使用されたもので、主に同人誌関連の著作で使われました。

受賞歴

第21回（1999年度）日本出版学会賞 - 別冊太陽『発禁本－明治・大正・昭和・平成』
第26回（2002年）日本児童文学学会賞 - 『藤子不二雄論－Fと(A)の方程式』
第38回（2007年）星雲賞特別部門
第14回（2010年）手塚治虫文化賞特別賞
第24回（2011年）大衆文学研究賞（早乙女貢基金）大衆文化部門 - 『戦後エロマンガ史』

著書・編著

米沢嘉博は、多くの著作を残しており、単著、共著、編著を含めると非常に多くの作品があります。代表的なものとして、以下のようなものがあります。

単著

『戦後少女マンガ史』
『戦後SFマンガ史』
『戦後ギャグマンガ史』
『マンガ批評宣言』
『アメリカB級グッズ道』
『藤子不二雄論 FとAの方程式』
『戦後野球マンガ史 手塚治虫のいない風景』
『マンガで読む「涙」の構造』
『売れるマンガ、記憶に残るマンガ』
『手塚治虫マンガ論』
『戦後エロマンガ史』
『戦後怪奇マンガ史』

共著

『2B弾・銀玉戦争の日々』
『マンガ伝―「巨人の星」から「美味しんぼ」まで』
『スピーチバルーン・パレード―マンガをめぐる女たちの冒険』

編著

『子どもの昭和史 少女マンガの世界 1・2』
『乱歩の時代 昭和エロ・グロ・ナンセンス』
『子どもの昭和史 少年マンガの世界 1・2』
『手塚治虫マンガ大全―子どもの昭和史』
『横山光輝マンガ大全―子どもの昭和史』
『古書遊覧―珍本・奇書・稀覯本・ト本』
『発禁本―明治・大正・昭和・平成』
『地下本の世界―発禁本 2』
『マンガと著作権 パロディと引用と同人誌と』
『発禁本 3』
『ロボットマンガは実現するか―ロボットマンガ名作アンソロジー ロボット開発最前線報告』
『同人誌バカ一代―イワえもんが残したもの』
『コスミコミケVOL.1～3』
『現代漫画博物館』

阿島俊名義の著書・編著

『吾妻ひでおに花束を』
『奇想天外臨時増刊号 吾妻ひでお大全集』
『マンガ＆アニメ同人誌ハンドブック』シリーズ
『コスプレハンドブック』
『美少女同人誌バトル』シリーズ
『21世紀同人誌ハンドブック』
* 『漫画同人誌エトセトラ'82～'98 状況論とレビュ－で読むおたく史』

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