交趾焼

交趾焼（こうちやき）

交趾焼とは、主に中国南部で生産された陶磁器の一種です。鮮やかな色彩の釉薬と、そこに現れるきめ細かな貫入（ひび割れ）が大きな特徴となっています。その名称は、かつてベトナムのコーチシナ（交趾支那）との貿易において、「交趾船」と呼ばれる船によって日本へもたらされたことに由来するとされています。しかし近年の研究により、本来の主要な産地は中国福建省南部の漳州であることが明らかになっています。

広義には、正倉院三彩に見られるような低火度釉を用いた三彩陶器や、中国・元時代の「法花（ほうか）」と呼ばれる技法の焼き物、さらには「黄南京（きなんきん）」と称される中国の陶磁器、清時代に龍や鳳凰などが描かれた作品なども、交趾焼の範疇に含められることがあります。しかし一般的には、黄、紫、緑、青、白といった多様で鮮やかな色合いの釉薬が用いられ、細かな貫入が見られる作品を指すことが多いです。

名称と定義

交趾焼は、「交趾（こうち）」「交趾写し」「コーチ」といった様々な呼称で呼ばれることがあります。通常この言葉で指されるのは、歴史的に交趾船による貿易で日本に伝来したオリジナルの中国製作品（本歌）と、それらを模倣して日本国内、特に京都を中心とした京焼で制作された色絵陶磁器全般です。

制作技法

交趾焼の生地には、陶器または磁器が用いられます。成形後、素焼きを行うか、あるいは高温でしっかりと焼き締める工程を経ます。その後、特徴的な交趾釉を施釉し、比較的低い温度での焼成（低火度焼成）を経て完成します。

作品の装飾においては、生地に彫刻を施したり、盛り上げ、椎泥（ついどろ）、イッチン（いっちん）、貼付け、線刻、泥化粧など、様々な技法を用いて下絵を描き、その上から鮮やかな色釉を掛けることで、豊かな表現を生み出しています。

日本での展開と茶道との関わり

交趾焼は、とりわけ茶の湯の世界で古くから高く評価されてきました。特に香合（こうごう：香を入れる小さな器）は特別視され、江戸時代に茶人が作成した香合の格付け番付では、交趾の香合が上位に位置づけられています。

茶の湯における価値の高さから、日本の陶工たちも積極的にその写しを制作しました。京都の楽家や永楽善五郎といった著名な陶工が写しを手がけたことを皮切りに、九谷焼や京焼など、日本各地で交趾焼の写しが作られるようになりました。永楽善五郎が制作に関わった紀州徳川家の偕楽園焼（かいらくえんやき）には、紫と浅葱色（トルコブルー）を基調とした、日本独自の法花様式の作風が見られます。また、青木木米（あおきもくべい）も、交趾焼の優れた作品を数多く手がけたことで知られています。近代においては、1943年（昭和18年）に二代赤沢露石（赤沢修三）が交趾焼の技術保存作家として認定されています。

台湾における交趾焼

台湾においては、19世紀に中国広東省から民芸品として伝えられました。台湾では「交趾陶（こうちとう）」や「嘉義焼（かぎやき）」などとも呼ばれています。主に寺院建築の壁面装飾として、人物や瑞獣（ずいじゅう：想像上のめでたい動物）、植物などをモチーフにしたものが用いられるほか、公式な贈答品としても活用されています。中国には「これを所有するものは名声を得る」という故事が伝えられており、縁起の良いものとされています。台湾では特に嘉義での生産が盛んなことから、嘉義焼とも呼ばれるようになりました。

参考文献として、『交趾香合　福建省出土遺物と日本の伝世品』（茶道資料館, MOA美術館, 1998年）などが挙げられます。

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