交響曲 (ピツェッティ)

交響曲 イ調

イルデブランド・ピツェッティ作曲の「交響曲 イ調」（正式名称：Sinfonia in A in celebrazione del XXVIo centenario della fondazione dell'Impero giapponese）は、1940年に皇紀2600年奉祝曲として大日本帝国政府の委嘱により作曲されました。

日本では「交響曲イ調」として知られていますが、初版のフルスコアには「交響曲イ長調」と表記されています。この楽曲は、第二次世界大戦中に作曲されたという背景を持ち、その複雑な音楽構造と歴史的な意義から、近年再評価の機運が高まっています。

作曲の経緯

1940年、紀元2600年を祝うにあたり、日本政府は各国に奉祝楽曲の作曲を依頼しました。イタリア政府は、当時ミラノ音楽院院長を務めていたピツェッティを指名しました。作曲の詳細な日時や過程は不明ですが、1940年7月には楽譜が日本に届けられており、それ以前に完成していたと考えられます。

初演

初演は1940年12月7日、東京歌舞伎座にて来賓向けの招待演奏会として、ガエタノ・コメリ指揮、紀元二千六百年奉祝交響楽団によって行われました。同年12月14日には同じく歌舞伎座で公開初演され、その後、東京と大阪で再演されました。さらに、12月19日にはラジオ放送で全国に届けられました。

編成

フルート2、ピッコロ1、オーボエ2、イングリッシュホルン1、クラリネット2、バスクラリネット1、ファゴット2、コントラファゴット1、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、テューバ1、ティンパニ、大太鼓、タムタム、小太鼓、タンバリン、シンバル、ハープ2、チェレスタ、そして弦楽器群という大規模な編成です。特筆すべきは、ヴィオラパートが第1と第2に分かれている点です。

楽曲構成

「交響曲イ長調」という表題にもかかわらず、全曲を通じてイ長調で書かれた楽章は存在しません。各楽章はそれぞれ異なる調性と形式を持ち、複雑な構成となっています。

第1楽章：Andante ma non troppo sostenuto ma teso - (Allegro)

イ短調（フリギア旋法）、4分の3拍子。序奏付きのソナタ形式です。ホルンとファゴットのユニゾンによるグレゴリオ聖歌風の循環主題が提示され、弦楽器や木管楽器が加わり盛り上がりを見せます。アレグロの主部に入ると、イ短調の第1主題と、ホルンのファンファーレ風な第2主題が登場し、これらの主題と循環主題が組み合わされ、ソナタ形式が構成されます。展開部が比較的長く、再現部では第2主題のファンファーレに導かれて第1主題が再現されます。演奏時間約16分。

第2楽章：Andante tranquillo

ヘ長調、4分の4拍子、ABAの三部形式。フルートとファゴットに循環主題を想起させる旋律が現れた後、弦楽合奏が主題を提示します。次第に厚みを増し、B部分では速度が落ち、緊迫感のある音楽となります。ヴァイオリン独奏に導かれてA部分が回帰し、ヘ長調で静かに閉じます。演奏時間約9分。

第3楽章：Rapido

ニ長調、8分の3拍子、スケルツォ。メンデルスゾーン風のスケルツォで、木管楽器や弦楽器、ハープによる細かいパッセージが特徴です。ファゴットにスケルツォの主題が現れ、2拍子と3拍子が同時に響く部分もあります。トリオ部分はニ短調、4分の3拍子となり、弦楽器の絶え間ないパッセージとともに、循環主題を想起させる旋律が登場します。スケルツォ部分が回帰し、クライマックスを築いたあと、静かにハープのパッセージを従えてクラリネットが駆け上がり曲を閉じます。演奏時間約6分。

第4楽章：Andante faticoso e pesante - Movimento di marcia molto sostenuto

イ短調（フリギア旋法）、4分の6拍子（主部は2分の2拍子）、序奏付きの行進曲です。ティンパニの連打と木管楽器の掛け合いで循環主題が現れ、弦楽器も加わります。テンポを速めてヴィオラに行進曲の主題が提示されます。途中2分の3拍子となり、循環主題と新たな旋律が絡み合います。転調を重ねた後、行進曲が戻り、悲劇的なクライマックスを迎えます。その後、速度を緩め、静かに循環主題がイ長調で現れ、イ長調の付加六の和音で静かに終結します。演奏時間約14分。

録音と演奏記録

長らく1940年のラジオ放送時の録音しか存在しませんでしたが、2017年に新たな録音がリリースされました。主な録音は以下の通りです。

ガエターノ・コメリ指揮、紀元二千六百年奉祝交響楽団（日本コロムビア S3012）
ダミアン・イオリオ指揮、RAI国立交響楽団（ナクソス 8.573613）

初演後はほとんど演奏機会がありませんでしたが、1959年1月に東京フィルハーモニー交響楽団が演奏し、2016年にはオーケストラ・ニッポニカが再演を行いました。

参考文献

この交響曲に関する詳細な情報は、以下の文献で確認できます。

* （ここに参考文献の情報を記載）

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