交響曲第1番 (シューベルト)

交響曲第1番（シューベルト）

フランツ・シューベルトの《交響曲第1番》ニ長調 D82は、彼の初期を代表する管弦楽曲です。現存するシューベルトの交響曲群の中で、最初に完成された作品として位置づけられています。ただし、これに先立つ1812年頃には、ニ長調の別の交響曲（D2B）が構想され、一部スケッチも試みられていましたが、こちらは未完に終わっています。本作の演奏時間は概ね30分程度です。

概要

この交響曲は、作曲家がわずか16歳だった1813年、彼が帝室王室寄宿神学校（通称コンヴィクト）に在学していた時期に生まれました。具体的な完成日は1813年10月28日と記録されていますが、いつ作曲に着手したかを示す資料は残されていません。作曲の動機や最初の演奏機会についても明らかではありませんが、パート譜にはコンヴィクトの校長を務めていたフランツ・ラングへの献辞が記されており、この作品が校長に献呈する目的で書かれた可能性が示唆されています（ただし、確証はありません）。また、本作の総譜の草稿には推敲の跡があまり見られないことや、関連するスケッチ類がほとんど残されていないことから、シューベルトが比較的速い筆致で書き上げた作品と推測されています。

初演

非公開での初演は、おそらく1813年秋にコンヴィクト内で行われたと考えられていますが、当時の記録が残されていないため詳細は不明です。一般に公開された形での初演は、シューベルトの死から52年という長い歳月を経て実現しました。シューベルトの研究者であったジョージ・グローヴが、交響曲第1番から第5番までの初期作品の上演を企画した際、まずその第一歩として、1880年1月30日にロンドンの「水晶宮コンサート」にて、グローヴの友人のオーガスト・マンスの指揮により第1楽章のみが演奏されました。その後、翌年の1881年2月5日、同じくロンドンの水晶宮で、再びマンスの指揮によって全曲の一般初演が初めて行われました。

自筆譜の来歴

本作の自筆総譜は、現在ウィーン楽友協会に大切に保管されています。この草稿は元々、シューベルトの兄フェルディナントが保管していましたが、フェルディナントの没後は弁護士のエドゥアルト・シュナイダーの手に渡りました。さらに1880年代初頭には、シューベルト作品の熱心な収集家であったニコラウス・ドゥンバが所有していました。ドゥンバの死後、彼の遺言により、この貴重な自筆譜はウィーン楽友協会へ寄贈されることとなりました。

作曲様式

この交響曲は、フランツ・ヨーゼフ・ハイドン、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト、そしてルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンといった、同時代の偉大な作曲家たちが確立した古典派音楽の様式を手本として作曲されています。特に第3楽章のメヌエットや終楽章には、彼ら先達の影響が顕著に見られます。

楽器編成

以下の標準的なオーケストラ編成が用いられています。

フルート1
オーボエ2
クラリネット2
ファゴット2
ホルン2
トランペット2
ティンパニ
弦5部

楽曲構成

この交響曲は、伝統的な4つの楽章から構成されています。

第1楽章 Adagio - Allegro vivace

ニ長調、2分の2拍子。ゆっくりとしたアダージョの序奏で開始されます。この序奏は分散和音の音型を主体とし、またソステヌートの部分では半音階的な動きが聴かれます。主部となるアレグロ・ヴィヴァーチェでは、音階進行が特徴的な第1主題と、分散和音を基調とする第2主題が提示されます。再現部では、冒頭のアダージョ序奏が元の倍の音価に引き伸ばされた形で再び現れ、そのまま流れるように第1主題へと繋がります。この、序奏の主題を後の楽章や再現部で発展させる手法は、後に作曲される《交響曲第8番》（未完成）の第1楽章でも見られます。

第2楽章 Andante

ト長調、8分の6拍子。フランツ・ヨーゼフ・ハイドンの影響が見られるA-B-A-B-Aの形式で書かれています。形式自体は古典的ですが、転調の扱い方や楽器の用法には、既にシューベルト独自の個性が表れています。この楽章のみ、トランペットとティンパニは使用されません。ヴァイオリンが奏でる穏やかで美しい主題で始まり、この主題は後にフルートが主導する形で繰り返されます。

第3楽章 Menuetto. Allegro

ニ長調、4分の3拍子。ハイドンやモーツァルトのメヌエットに範を取りながらも、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンのスケルツォ作品に通じる力強い性格も持っています。自筆譜では、当初「Allegro vivace」と記されていましたが、その上に現在の「Menuetto. Allegro」という速度・性格表示が重ねて書かれています。中間部にあたるトリオ（ニ長調）は、当時のオーストリアで流行していたレントラー舞曲風のリズムや旋律を持ち、ここにシューベルトならではの抒情的な作風が現れています。

第4楽章 Allegro vivace

ニ長調、4分の4拍子。ソナタ形式で構成されています。ジョアキーノ・ロッシーニのオペラ音楽などに典型的に見られるイタリア様式の影響を受けた活気ある楽想と、シューベルトが育ったウィーンの音楽伝統に根ざした魅力的な旋律が融合して、この楽章を作り上げています。第1ヴァイオリンによって提示される第1主題と、ヴァイオリンとファゴットが奏でる第2主題は、動機的に密接な関連を持っています。楽章の終盤にあたる小結尾では、この二つの主題間の関連性が巧妙に利用されています。

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