ジョージ・グローヴ

サー・ジョージ・グローヴ：音楽史に名を刻んだ多才な人物

サー・ジョージ・グローヴ (1820年 - 1900年) は、19世紀イギリスを代表する音楽学者にして音楽評論家です。彼の名声を不動のものとしたのは、なんといっても世界的に有名な音楽事典『グローヴ音楽事典』の編纂でしょう。この事典は現在も『ニューグローヴ世界音楽大事典』として改訂、増補され続け、世界中の音楽研究者にとって欠かせない参考文献となっています。

グローヴは、当初は土木技師として成功を収めていました。グラスゴー、ジャマイカ、バミューダ諸島などで機械技師として活躍した後、イギリスに戻ります。しかし、彼の情熱は音楽にも注がれていました。クリスタルパレスでのオーケストラコンサートの責任者を務めていた経験が、音楽への深い理解を育むことになります。コンサートのプログラムを丹念に記録していたことが、後に『グローヴ音楽事典』編纂へと繋がる重要な一歩となりました。

彼の音楽への貢献は、事典編纂だけに留まりません。当時イギリスでは忘れられていたフランツ・シューベルトの音楽にいち早く着目し、友人である作曲家アーサー・サリヴァンと共に、ウィーンでシューベルトの埋もれた楽譜の発掘に尽力しました。この研究は、シューベルトの代表作である『キプロスの女王ロザムンデ』を始めとした数々の作品を後世に残すという、重要な成果を生み出しました。シューベルトの作品群が広く知られるようになるきっかけを作ったと言えるでしょう。

グローヴの才能は音楽の世界に留まりませんでした。聖書研究にも深い造詣があり、オリジナル文書の研究や、ウィリアム・スミスによる大規模な聖書辞典『Smith's Bible Dictionary』の完成にも携わっています。さらに、パレスチナ探査基金の共同設立者の一人としても知られています。その幅広い知識と多様な活動は、まさに時代の寵児と呼ぶにふさわしいものです。

教育者としての顔も持ち合わせていました。1883年から1894年まで、王立音楽大学の初代校長を務め、ヒューバート・パリーやチャールズ・ヴィリアーズ・スタンフォードといったイギリスを代表する音楽家を教授陣に迎え入れました。王立音楽大学の発展に大きく貢献し、ロンドンの音楽界の発展に貢献しました。

晩年まで精力的に活動を続けたグローヴは、1900年にこの世を去りましたが、彼の功績は『グローヴ音楽事典』という形で、現在も世界中の音楽研究者や愛好家に大きな影響を与え続けています。音楽史における彼の地位は、まさに揺るぎないものと言えるでしょう。 音楽家、教育者、聖書学者として多才ぶりを発揮し、それぞれの分野で卓越した業績を残したグローヴの生涯は、まさに知的好奇心と探究心によって彩られたものでした。彼の残した遺産は、これからも音楽文化の発展に貢献し続けることでしょう。

略歴

1820年：誕生
1839年：技術学校卒業後、機械技師として活躍
1846年：イギリス帰国
1850年：芸術協会書記
1852年：クリスタルパレス書記
1856年 - 1896年：クリスタルパレスでの演奏会解説
1867年：サリヴァンと共にウィーンでシューベルトの楽譜を発見
1868年 - 1883年：「Macmillan's Magazine」編集者
1882年 - 1894年：王立音楽大学初代校長
1879年 - 1889年：『グローヴ音楽辞典』刊行
1883年：ナイトに叙爵
1900年：逝去

邦訳作品

『ベートーヴェンと彼の交響曲』（岩波書店）
『フランツ・シューベルト』（岩波文庫）
* 『ニューグローヴ世界音楽大事典』（講談社）

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