交響曲第6番 (ヴォーン・ウィリアムズ)

レイフ・ヴォーン・ウィリアムズ：交響曲第6番 ホ短調

レイフ・ヴォーン・ウィリアムズが晩年に差し掛かった1944年から1947年にかけて作曲した交響曲第6番 ホ短調は、作曲家が75歳の誕生日を迎える直前に完成されました。この作品は、その独特な音楽語法と、激動の時代背景との関係性を巡って、発表当初から大きな関心を呼んできました。

特に冒頭の3つの楽章は、耳をつんざくような不協和音と、荒々しく力強い表現に満ちています。これらの楽章に込められた激しさや、時に感じられる皮肉、不気味な響きは、第二次世界大戦とその後の混乱期の世界情勢を反映しているのではないか、「戦争交響曲」とも呼ぶべき性格を持っているのではないか、といった解釈が生まれました。時代の不安や争いが音楽に刻み込まれている、という見方です。

しかし、全曲のおよそ3分の1を占める最後の楽章は、それまでの楽章とはまったく対照的な静けさで貫かれています。終始、最も弱い音量であるピアニッシモ（pp）で、ゆっくりとしたテンポで演奏されるのです。この静けさが、戦争の終結と平和の訪れを暗示しているのではないか、と考える聴き手もいたかもしれません。しかし、初演当時からこの終楽章は、単なる平和の象徴ではない、より深い、あるいは異質な静寂として受け止められてきました。例えば、夜のとばりが降りた後の世界の沈黙、生命の営みが止まったかのような冷たい静寂など、様々な形容をもって語られています。

作曲者自身は、この交響曲が特定の出来事や戦争を直接的に描いたものではないと強く否定しています。彼は、この作品を純粋な絶対音楽として、音そのものの響きや形式の探求として理解してほしい、と繰り返し述べていました。聴き手それぞれが、音楽から何を感じ取るかは自由であるべきだ、という姿勢だったのでしょう。

この重要な作品の初演は、1948年4月21日にロンドンのロイヤル・アルバート・ホールで行われました。ロイヤル・フィルハーモニック協会の主催による演奏会で、サー・エイドリアン・ボールトの指揮のもと、BBC交響楽団がその世界初演を務めました。

楽器編成

この交響曲の演奏には、充実したオーケストラが必要です。特に管楽器には特色があり、一般的な編成に加えて特定の楽器が要求されます。

フルート3（第3奏者はピッコロに持ち替えます）
オーボエ2
コーラングレ
クラリネット2
テナー・サクソフォーン
バス・クラリネット
ファゴット2
コントラファゴット
ホルン4
トランペット4（第4奏者は任意、必ずしも必須ではありません）
トロンボーン3
チューバ
ティンパニ
打楽器群（少なくとも3人の奏者が必要で、大太鼓、小太鼓、トライアングル、シンバル、シロフォンを用います）
ハープ（可能であれば2台の使用が望ましいとされています）
弦五部（ヴァイオリン第一、ヴァイオリン第二、ヴィオラ、チェロ、コントラバス）

特筆すべき点として、テナー・サクソフォーンとバス・クラリネットは必須楽器とされており、たとえ一人の奏者が掛け持ちで演奏するとしても、これらの音色を欠くことは許されません。

楽曲構成

交響曲第6番は、以下の4つの楽章で構成されています。全曲を通して演奏時間は約34分と指定されており、各楽章の間には明確な切れ目がなく、アタッカで続けて演奏されるように書かれています。

1. 第1楽章：アレグロ
2. 第2楽章：モデラート
3. 第3楽章：スケルツォ　アレグロ・ヴィヴァーチェ
4. 第4楽章：エピローグ（モデラート）

特に終楽章が「エピローグ」と名付けられていること、そしてその音楽的な内容から、この作品が単なる締めくくりではなく、何か物語の「結び」や「余韻」を示唆しているのではないか、という解釈も生まれています。激しい動乱と、それに続く深遠な静寂という対比は、この交響曲に独自の神秘的な雰囲気を与えています。

参考文献として、『最新名曲解説全集2 交響曲II』（音楽之友社）やオックスフォード大学出版局から出版されている総譜などが挙げられます。

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