交響曲第9番 (ヴォーン・ウィリアムズ)

交響曲第9番 ホ短調 (レイフ・ヴォーン・ウィリアムズ)

交響曲第9番ホ短調は、イギリスの作曲家レイフ・ヴォーン・ウィリアムズが最後に手掛けた交響曲です。この作品は、作曲家が80歳を過ぎてから、具体的には1956年から翌1957年にかけて作曲されました。長寿を全うした作曲家による晩年の創作意欲の証として重要な位置を占めています。

作品の初演は、完成から間もない1958年4月2日、ロンドンのロイヤル・フェスティバル・ホールにて行われました。指揮はマルコム・サージェントが担当し、ロイヤル・フィルハーモニック管弦楽団が演奏しました。この記念すべき初演の場には作曲家自身も立ち会いましたが、そのわずか4ヶ月後の同年8月26日、彼は85歳で波乱に富んだ生涯を閉じています。このため、交響曲第9番は事実上の遺作となりました。作品は、その初演を行ったロイヤル・フィルハーモニック協会に献呈されています。

この交響曲の大きな特徴の一つは、その独特な楽器編成にあります。通常の管弦楽に加え、比較的使用頻度の低い楽器が積極的に取り入れられています。具体的な編成は以下の通りです。

木管楽器:
フルート3（うち1人はピッコロ持ち替え）
オーボエ2
コーラングレ
クラリネット2
バスクラリネット
ファゴット2
コントラファゴット
サクソフォーン3（アルト2、テナー1）

金管楽器:
ホルン4
フリューゲルホルン
トランペット2
トロンボーン3
チューバ

打楽器:
ティンパニ
打楽器群（グロッケンシュピール、シロフォン、大太鼓、小太鼓、テノールドラム、シンバル、トライアングル、非常に大きく深い音のゴング、銅鑼、深い音の鐘など）

その他:
ハープ2
チェレスタ
弦五部

特に注目すべきは、サクソフォーンとフリューゲルホルンがオーケストラに導入されている点です。作曲家は、サクソフォーンについては第1アルト奏者が不可欠であるとし、他のサクソフォーンパートはやむを得ない場合に限り、主にクラリネットとファゴットでの代奏が可能であると指示しています。

フリューゲルホルンについても詳細な指示があり、やむを得ない状況では第3トランペットによる代奏が認められています。しかし、第2楽章の重要な独奏部分については、第1トランペットか第2ホルンによる代奏が推奨されています。また、作曲家はコルネットによる代奏を明確に禁止し、本来のフリューゲルホルン用のマウスピースを使用することを特に注記しており、この楽器の音色に対する作曲家の強いこだわりがうかがえます。

楽曲は伝統的な4つの楽章で構成されています。

1. 第1楽章：モデラート・マエストーソ、ホ短調、4分の4拍子で開始されます。
2. 第2楽章：アンダンテ・ソステヌート
3. 第3楽章：スケルツォ、アレグロ・ペザンテ
4. 第4楽章：アンダンテ・トランクイロ

全曲の演奏時間は、スコア上では約30分と指定されていますが、実際の演奏では35分前後となることが多いようです。瞑想的で時に神秘的な響きを持つこの作品は、晩年のヴォーン・ウィリアムズが到達した境地を示すものとして、彼の全交響曲の中でも独特の輝きを放っています。特別な楽器編成がもたらす響きは、この作品に忘れがたい色彩を与えています。

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