人穴富士講遺跡

人穴富士講遺跡

人穴富士講遺跡は、静岡県富士宮市人穴に位置する、富士講に関わる史跡群です。この遺跡は、国の史跡「富士山」の一部として指定されており、さらに「富士山－信仰の対象と芸術の源泉」の構成資産の一つとして、ユネスコの世界文化遺産にも登録されています。

概要

人穴は、16世紀から17世紀にかけて富士講の開祖とされる角行が修行を行い、浅間大菩薩から啓示を受け、入滅した場所と伝えられています。『吾妻鏡』にも「浅間大菩薩の御在所」と記述されており、古くから神聖な場所として認識されていました。角行がこの地を浄土としたことから、富士講の信者たちもここを聖地とみなし、参詣や修行を行うようになりました。特に、吉田口登山道を利用する信者にとって、人穴は重要な巡礼地であり、吉田と人穴を結ぶ中道往還が利用されたと考えられています。

しかし、富士講の衰退とともに、碑塔の建設は1964年以降行われていません。2013年には、その歴史的、文化的な価値が認められ、世界文化遺産に登録されました。

人穴洞穴

人穴の洞穴は、富士山の噴火によって形成された溶岩洞穴です。現在は崩落の危険性があるため、一般の立ち入りは禁止されています。洞穴の入口は南西端にあり、内部には祠と3基の碑塔、4基の石仏が建立されています。入口から約20mの位置には祠があり、30m地点の屈曲部手前中央には直径約5mの溶岩柱がそびえています。洞穴の最奥部は約80～90mで、閉塞していると考えられています。

人穴浅間神社

人穴浅間神社は、全国にある浅間神社の一つです。正式には「人穴」の名はつかず、単に浅間神社と呼ばれています。主祭神は、富士山本宮浅間大社と同様にコノハナノサクヤビメであり、角行と徳川家康も祀られています。この神社は、人穴の管理を行っているとの指摘もあります。明治時代以前は寺院であり、境内には今も大日堂が残っています。

境内には、富士講の信者たちが埋葬された300以上の墓碑があります。角行の墓碑のほか、食行身禄や村上光清といった富士講の重要人物の墓碑も多く見られます。

歴史

人穴浅間神社の創建は1648年とされ、1665年には前身である光侎寺が富士講二世の日珀、三世の珀心によって再興されたのが始まりとされています。1942年には、少年戦車兵学校の開校に伴い、一帯が演習地となったため、浅間神社も一時移転しました。その後、1954年に再建され、2001年には現在の社殿が建立されました。2010年には、富士講の信者たちによって、角行が富士山で修行を開始してから450年を記念する大祭が開催されました。

碑塔群

人穴富士講遺跡には、233基もの碑塔が残されています。そのうち89基には建立年代が記されており、富士講が最も隆盛した18世紀末から19世紀前半にかけて建立されたものが多数を占めます。これらの碑塔に刻まれた地名を見ると、約6割が江戸下町の地名であり、静岡県内の地名はわずか1基しかありません。最も古いとされる碑塔は、洞穴内に位置する1664年建立のもので、富士講成立以前のものと考えられています。

碑塔群には、角行の供養碑をはじめ、祈願奉納碑、顕彰祈念碑、墓碑供養碑などがあります。祈願奉納碑は「富士仙元」などの銘が刻まれ、祈願を主としたものです。顕彰祈念碑は講の名前や笠印などが刻まれた記念碑で、墓碑供養碑は戒名や行名が記されています。これらの碑塔は、講(枝講)ごとにまとまっており、刻銘から各講の歴史や構成地域を知ることができます。現在、碑塔群への立ち入りは制限されています。



参考文献:
* 富士市立博物館編『人穴浅間神社の碑塔と拓影』富士市立博物館、1999年。

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