食行身禄

食行身禄（じきぎょう みろく）

食行身禄は、江戸時代中期に活躍した宗教家で、富士講の指導者として知られています。本名は伊藤伊兵衛といい、食行身禄は修行者としての名前です。彼は1671年に伊勢国（現在の三重県）で生まれ、幼少期を過ごしました。

生涯

1688年、身禄は江戸で富士講の開祖である角行の弟子である月行劊忡に師事し、油売りをしながら修行に励みました。身禄という名前は、釈迦の死後56億7千万年後に現れて世直しを行うとされる弥勒菩薩に由来しています。当時の富士講の指導者であった村上光清が「大名光清」と呼ばれたのに対し、身禄は貧しい人々に教えを広めたことから「乞食身禄」と呼ばれていました。

1733年、63歳になった身禄は、富士山七合五勺目（現在の吉田口八合目）の烏帽子岩で断食行を行い、35日後に入定しました。この壮絶な最期は、人々に大きな衝撃を与え、身禄への信仰をより一層強めることとなりました。

身禄の死後、富士講は爆発的に広がり、「江戸八百八講」と呼ばれるほどになりました。身禄は、開祖である角行と共に富士講の信者から深く崇敬され、救世主的な存在として人々に迎えられました。また、富士山を模した「富士塚」が各地に築かれ、実際に富士山に登らなくても、その功徳が得られると信じられました。

身禄の教えを受け継いだ富士講は、現在も様々な形で存在しています。その一つに、身禄の三女である伊藤一行の系統を継ぐ、小谷三志の不二道があり、教派[[神道]]の実行教として現代に続いています。また、扶桑教や丸山教といった他の宗教団体にも、身禄の教えは受け継がれています。

身禄の墓所は東京都文京区の海蔵寺にあり、区の指定文化財となっています。

身禄の教え

身禄は、呪術による加持祈祷を否定し、正直と慈悲をもって勤労に励むことを信仰の根幹としました。また、米を真の菩薩と称え、最も大切にすべきものと説きました。陰陽思想に基づいた男女の和合や、身分差別を認めたうえでの四民（士農工商）の協調、そして「世のおふりかわり」という世直しにつながる考えなど、封建社会の中で独自の倫理観を持っていました。

身禄の教えは、江戸の庶民に広く受け入れられましたが、徒党を組むことを嫌った幕府からはたびたび禁止令が出されました。しかし、その教えは人々の間に根強く浸透し、富士講の隆盛を支える原動力となりました。

参考文献

『身禄の聖物　田辺近江家資料を中心に』- 富士吉田市歴史民俗博物館が2009年に開催した展覧会図録
大谷正幸 (2014年3月1日). “「[富士講]]中興の祖」食行身禄の実像 ―「神の使いに」と断食死”. 中外日報. [http://www.chugainippoh.co.jp/ronbun/2014/0301rondan.html

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