浅間神社

浅間神社について

浅間神社（あさまじんじゃ、せんげんじんじゃ）は、主に富士山に対する信仰（富士信仰/浅間信仰）に基づいて、「浅間」を社名とする神社の総称です。これらの神社は、富士山を神格化した浅間大神、または記紀神話に登場する木花之佐久夜毘売命を祀っています。

概要

浅間信仰の成立と語源

富士山は古来より霊山として崇められ、「福慈神」や「不尽神」と記されることもありました。奈良時代末期から火山活動が活発化すると、火山神としての信仰（浅間信仰）が全国に広まりました。「浅間（あさま）」の語源は諸説ありますが、長野県の浅間山のように火山を意味すると考えられています。「あさま」は古称で、音読みの「せんげん」は中世以降に使われるようになりました。

浅間神と木花咲耶姫命

浅間神と木花咲耶姫命が同一視されるようになった背景には、木花之佐久夜毘売の出産神話が関係しています。また、木花之佐久夜毘売命の父神である大山祇神や姉神である磐長姫命を主祭神とする神社も存在し、全国には約1,300社の浅間信仰の神社があります。

これらの神社は、富士山麓をはじめとして、富士山の山容を眺められる場所に多く所在しています。中でも、富士山南麓の静岡県富士宮市に鎮座する富士山本宮浅間大社が総本宮とされています。浅間神は、神仏習合により「浅間大菩薩」（本地仏：大日如来）とも称されました。

祭祀の特徴

祭祀の特徴として、主要な浅間神社では、山中に祀られた山宮と麓の集落に鎮座する里宮が対をなして祀られています。山宮は富士山を遥拝する場所、里宮は湧水池や湖沼周辺で鎮火を祈る場所とされています。また、関東地方を中心に、多くの神社の境内には富士塚が築かれ、氏子らによって富士講が形成されました。

名神大社「浅間神社」

延長5年（927年）に成立した『延喜式神名帳』には、名神大社として駿河国と甲斐国に「浅間神社」の記載があります。

駿河国の浅間神社

駿河国には、「駿河国富士郡 浅間神社」と記載された名神大社があり、これは現在の富士山本宮浅間大社に比定されています。富士山本宮浅間大社は、文献上で確認できる最も古い浅間神社で、仁寿3年（853年）には名神・従三位に叙せられています。これは「浅間神」の初見でもありますが、神名の成立はさらに遡ると考えられています。

社伝によると、創建は垂仁天皇3年とされ、大同元年（806年）までは山宮浅間神社で祀られていましたが、同年に現在地に遷座しました。遷座前には、式内社・富知神社が鎮座し、湧玉池を祭祀していました。この遷座は、富士信仰が水の神である「フクチ・フジ」信仰から火の神である「アサマ」信仰へと転換したことを示す象徴的な出来事だと考えられています。

甲斐国の浅間神社

甲斐国には、「甲斐国八代郡 浅間神社」と記載された名神大社があり、以下の3社が論社とされています。

浅間神社（笛吹市） - 旧国幣中社、別表神社
河口浅間神社（南都留郡富士河口湖町） - 旧県社
一宮浅間神社（西八代郡市川三郷町） - 旧村社

文献の記載

甲斐国に浅間神が祀られるようになった経緯は、『日本三代実録』に記されています。貞観6年（864年）の富士山の噴火により、駿河国の浅間神社の祭祀が怠ったためとされ、甲斐国でも祭祀が行われることになりました。貞観7年（865年）には、浅間明神が伴真貞に神がかりし、甲斐国に神社を定めることを求めたとされ、官社に列しました。

比定をめぐる議論

名神大社と甲斐国一宮が同一である必然性はありませんが、甲斐国には名神大社が一社しかないため、同一と捉えるのが自然とされています。3社の中で、一宮浅間神社は「一宮」を社名としていますが、これは市川郷のものであると解釈されています。残る2社については、以下の論点があります。

伴真貞の託宣により創建された神社が官社になったのか、改めて造営された神社が官社になったのか。
山梨郡に設けられた神社は官社ではないのか。

河口浅間神社を式内社とする説は古くからあり、江戸時代の文献にも記載があります。一方、笛吹市の浅間神社を式内社とする説が現在有力視されています。

主な浅間神社

高い社格を有する浅間神社

名神大社、官国幣社、別表神社に指定されている浅間神社。

世界遺産構成資産

2013年に「富士山と信仰・芸術の関連遺産群」として世界文化遺産に登録された浅間神社。

富士山本宮浅間大社（静岡県富士宮市）
山宮浅間神社（静岡県富士宮市）
村山浅間神社（静岡県富士宮市）
人穴浅間神社（人穴富士講遺跡）（静岡県富士宮市）
須山浅間神社（静岡県裾野市）
冨士浅間神社（静岡県駿東郡小山町）
河口浅間神社（山梨県南都留郡富士河口湖町）
冨士御室浅間神社（山梨県南都留郡富士河口湖町）
北口本宮冨士浅間神社（山梨県富士吉田市）

富士山登山口別の浅間神社

主要な登山口の拠点となった神社。

人穴口: 人穴浅間神社
表口・三島口: 富士山本宮浅間大社・山宮浅間神社
須山口: 南口下宮須山浅間神社
御殿場口: 東表口参道宮新橋浅間神社、東表口下宮浅間神社
山中口: 山中浅間神社
東口: 東口本宮冨士浅間神社
北口: 北口本宮冨士浅間神社
船津口: 河口浅間神社

富士下方五社

大同元年（806年）に駿河国富士郡下方庄に勧請された5社の総称。

富知六所浅間神社
瀧川神社
今宮浅間神社
日吉浅間神社
入山瀬浅間神社

地域別の浅間神社

北海道・東北地方

北海道：浅間神社（松前郡松前町）
岩手県：浅間神社（北上市）
秋田県：浅間神社（山本郡藤里町）
山形県：浅間神社（東根市、酒田市）
宮城県：浅間神社（石巻市）
福島県：富士浅間神社（福島市）、浅間神社（伊達市、いわき市、田村市、南相馬市、大沼郡会津美里町、東白川郡棚倉町）

関東地方

茨城県：浅間神社（牛久市、古河市）
栃木県：浅間神社（佐野市、足利市）
群馬県：多数
埼玉県：多数
千葉県：多数
東京都：多数
神奈川県：多数

甲信・北陸地方

山梨県：多数
長野県：浅間神社（北佐久郡軽井沢町）

東海地方

静岡県：東部、中部、西部地域に多数
岐阜県：多数
愛知県：多数

近畿・中国地方

広島県：浅間神社（尾道市）

脚注

[1] 各浅間神社の詳細については、参考文献を参照してください。

参考文献

『日本歴史地名大系 山梨県の地名』・『日本歴史地名大系 静岡県の地名』（平凡社）
谷川健一 編『日本の神々 -神社と聖地- 10 東海』（白水社）
式内社研究会編纂『式内社調査報告 第10巻』（皇學館大学出版部）
『国史大辞典』（吉川弘文館）

関連項目

富士講
富士塚

外部リンク

浅間神社 - コトバンク
浅間神社（あさまじんじゃ 富士山を信仰対象とした神社） - コトバンク

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