人間の翼 最後のキャッチボール

『人間の翼 最後のキャッチボール』は、牛島秀彦の小説『消えた春』を原作とした1996年公開の日本映画です。モノクロ映像で描かれる本作は、戦前のプロ野球選手、石丸進一の短い生涯を追っています。

あらすじ

物語は、名古屋軍（現在の中日ドラゴンズ）のエースとして活躍した石丸進一が、やがて召集を受け、神風特別攻撃隊員として特攻に赴くまでの青春を描いています。野球に情熱を燃やしていた石丸が、戦争によってその夢を絶たれていく姿は、観る者に深い感動と戦争への憤りを抱かせます。

キャスト

石丸進一：東根作寿英
桜井圭子：山口真有美
本田耕一：酒井一圭（特攻前に石丸と「最後のキャッチボール」を行う）
石丸金三：佐藤允（進一の父）
石丸ソデ：馬渕晴子（進一の母）
石丸藤吉：藤王みつる（進一の兄、同じくプロ野球選手）
小西得郎：誠直也（名古屋軍監督）
山岡荘八：広岡瞬（海軍報道班員として最後のキャッチボールに立ち会う）

制作の背景

本作は、岡本明久監督が古本屋で偶然見つけた『消えた春』に感銘を受け、映画化を熱望したことから始まりました。東映の協力を得ようとしたものの、紆余曲折を経て自主制作映画としての道を歩むことになりました。しかし、撮影の高岩震、美術の春木章など、東映のベテランスタッフが参加し、作品の質を高めています。

脚本は、岡本監督が友人の斎藤力と共に執筆し、原作者の牛島も映画化を快諾しました。製作費は、石丸進一の兄の息子である石丸剛が代表を務める「『人間の翼』を作る会」が中心となって、50円募金から始まり、多くの人々の支援によって集められました。また、石丸の佐賀商業での先輩である参議院議員の大塚清次郎の支援もあり、製作費の問題は解決に向かいました。

主役の石丸進一役は、オーディションで選ばれた新人・東根作寿英が演じています。東根作、酒井一圭は役作りのため、体重を絞って撮影に臨みました。

撮影

撮影は、石丸が所属していた中日ドラゴンズが協力し、古い野球道具や写真を提供してくれたほか、フェンスに看板のない球場を探してくれました。1995年6月に佐賀県でクランクインし、九州各地でロケが行われました。特に、佐賀商業と熊本工業の試合シーンでは、佐賀市江北町の住民がボランティアで出演しました。また、石丸が最初に訓練を受けた場所である、長崎県佐世保の陸上自衛隊相之浦海兵団も撮影に使用されました。

九州ロケの後、東京の撮影所と、群馬県中之条町の小学校分校で撮影が行われました。分校は、特攻隊員の宿舎である野里国民学校に見立てて撮影されました。

公開と評価

1995年12月1日に地元佐賀県で先行上映され、好評を博しました。その後、東京、名古屋、福岡でも公開されましたが、自主制作映画のため、劇場との交渉や資金調達に苦労しました。最終的には、東映、日本ヘラルド映画、東急レクリエーションの協力もあり、新宿シネマミラノなどで上映されました。

産経新聞のコラムでは、この作品が単なる反戦映画ではなく、野球映画でもある点が評価され、石丸が野球への情熱を抱きながらも、戦争によって無念の死を遂げたことへの深い悲しみが表現されていると評されています。映画評論家の間でも、そのメッセージ性と映像美が評価されました。

作品が伝えるもの

『人間の翼 最後のキャッチボール』は、戦争の悲惨さだけでなく、一人の若者が夢を追い求める姿、そしてその夢が戦争によって奪われていく様を描いた作品です。自主制作映画でありながら、多くの人々の情熱によって完成したこの映画は、観る者に深い感動と、平和への願いを抱かせます。モノクロ映像で描かれたこの物語は、石丸進一の短い生涯を通して、戦争の残酷さと、人間の強さを伝えています。

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