今井館

今井館の概要と歴史



今井館（いまいかん）は、日本の無教会主義を支えた内村鑑三の活動拠点として知られる聖書講義の講堂です。この施設は、内村の信者であった香料商人今井樟太郎の尽力により設立されました。

今井樟太郎と内村鑑三の出会い



今井樟太郎は、大阪で香料の商売を営んでいた正直な信者であり、彼は日本組合基督教会の天満教会の教徒でもありました。内村鑑三が主筆を務めていた『東京独立雑誌』を愛読し、その廃刊時には内村に同情の手紙を書くなど、深い関心を寄せていました。1900年の秋、内村が京都で講演を行う際、今井は彼の話を初めて聴く機会を得ました。その講演が今井にとっては励みとなり、彼の事業は次第に好転しました。しかし、その成功も束の間、1906年には今井が急逝してしまいました。

今井の死と内村の行動



内村は今井の死を悼み、彼のために墓碑銘を書き、1907年に天満教会で行われた記念会では「友好の秘儀」と題した講演を行いました。この講演がきっかけとなり、今井の未亡人ノブ（信子）が内村に寄付を行い、その資金で内村は東京の淀橋町（現在の新宿区）に聖書講義のための会場を建設しました。

今井館は1907年末に完成し、内部は8畳と6畳の二つの部屋から構成されています。この館が設立されたことで、角筈聖書研究会は参加資格を広げ、1908年からは『聖書之研究』の購読者に出席を認めるようになりました。特に、1908年6月には、『聖書之研究』の第100号を祝う開所式が行われ、今井館は内村の無教会運動の重要な拠点とされるようになりました。

無教会第二世代の葛藤



内村の死後、無教会の第二世代の間では今井館の管理を巡る議論が紛糾しました。この論争は、当初内村が今井館を継承することを考えていた塚本虎二との断交や、内村から後継者とされた畔上賢造との緊張関係など、複雑な状況を引き起こしました。また、石原兵永が今井館で聖書集会を開催しようとした際、全国の無教会関係者から中止の要求が相次ぎ、集会は短期間で取りやめとなりました。こうした事態は、教会堂を持たない無教会がなぜ聖書講堂を保有するのかという根源的な問いを顕在化させることとなりました。

今井館の遺産と現在



自由が丘の地に今井館の聖書集会の場はその後、矢内原忠雄の講義が行われ、その機能は継続されました。矢内原は、自身が今井館の「相続人」ではなく、単なる利用者に過ぎないと明言しました。現在では、今井館教友会という組織が聖書講堂と資料館の維持・管理を行っていますが、これは内村が設立した教友会とは直接のつながりは持っておらず、第二世代において断絶が見られました。

2001年にはNPO法人として今井館教友会が正式に設立され、2020年の年末には自由が丘にあった今井館聖書講堂と資料館が新築移転のために解体されました。今井館の歴史とその精神は、今もなお多くの人々に受け継がれています。

参考文献



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