今村天主堂

今村天主堂について

今村天主堂は、福岡県三井郡大刀洗町に位置するカトリックの教会堂です。地元では「今村教会堂」とも呼ばれ、1913年に竣工した赤煉瓦造りの美しい建築物が、国の重要文化財として指定されています。この教会堂は、単なる宗教施設としてだけでなく、地域の歴史と文化を伝える重要な存在となっています。

名称について

この教会堂は、カトリック福岡司教区では「カトリック今村教会」と呼ばれています。重要文化財として登録された際の名称は「今村天主堂」であり、それ以前に福岡県の有形文化財として指定された際には「今村教会堂」という名称が用いられていました。これらの名称は、歴史的背景や信仰の文脈によって使い分けられています。

隠れキリシタンの歴史

今村地区は、江戸時代に隠れキリシタンとして信仰を守り抜いた人々が多く暮らしていた歴史を持っています。この地域でのキリスト教信仰は戦国時代に遡るとされていますが、その起源は明確ではありません。16世紀には大友宗麟の支配下で信徒集団が形成され、その後もキリスト教の信仰は密かに受け継がれてきました。

特に、徳川幕府による禁教令後も、今村の信徒たちは隠れキリシタンとして信仰を継続しました。現在の聖堂の祭壇は、江戸時代初期に殉教したジョアン又右衛門の墓の上に設けられており、彼の存在は地域の人々にとって特別な意味を持っています。

1867年、長崎の大浦天主堂のベルナール・プティジャン神父によって、今村のキリシタンたちが発見され、カトリック教会への復帰が図られました。当時、今村地域には約200戸のキリシタンが潜伏しており、これは平野部での発見としては非常に稀なケースでした。禁教令が解かれるまで、今村の信徒たちは大浦天主堂と密かに連絡を取り合い、信仰を守り続けました。

初期の教会と現聖堂の建設

1879年、ジャン・マリー・コール神父が今村に着任し、多くの人々に洗礼を授けました。当初、聖堂はなく、民家の土蔵をミサに使用していました。1881年に最初の聖堂が建設されましたが、すぐに手狭になり、1887年に増築されました。

現在の聖堂は、1896年に着任した本田保神父によって、1908年から改築計画が始まりました。殉教者ジョアン又右衛門の墓の上に祭壇を設けるという構想のもと、新しい大聖堂の建築が計画されました。海外からも寄付が寄せられ、特にドイツからの支援が大きかったとされています。

1912年に鉄川与助の設計で着工し、軟弱な地盤を克服する困難な工事を経て、1913年に竣工しました。この聖堂は、正面に六角形の双塔を持つロマネスク様式で、長崎の旧浦上天主堂をモデルに、一回り小さく造られました。鉄川与助は、長崎を中心に多くの教会堂を設計した人物で、この今村天主堂は彼の7作目にあたります。

また、本田神父は今村出身のブラジル在留者に塔に取り付ける釣鐘の寄付を依頼し、1914年に長崎司教によって聖別されましたが、この鐘は第二次世界大戦中に徴発されてしまいました。

建築の特徴と評価

今村天主堂は、赤煉瓦建築としての評価も高く、「20世紀 日本赤煉瓦建築番付」では「西の横綱」に選ばれています。また、横浜開港資料館の日本赤煉瓦建築番付では「西の大関」に選ばれるなど、その建築美は広く認められています。2006年には福岡県指定有形文化財、2015年には国の重要文化財に指定されました。

しかし、築100年を超え、老朽化が進んでいるため、2021年1月から建物内への立ち入りが禁止され、2022年6月からは耐震補強工事が行われています。

教会堂の概要

今村天主堂の保護者は大天使ミカエルで、間口14.6メートル、奥行37.1メートルの三廊式バシリカ型の教会堂です。外周部と双塔、アプスは煉瓦造り、内部は木造で、屋根は桟瓦葺きです。内部はアーケードで区切られ、コリント式柱頭を持つ円柱が使用されています。リブ・ヴォールト天井など、当時の建築様式を忠実に再現した構造です。

アクセス

今村天主堂へのアクセスは、西鉄久留米駅からバスで終点下車すぐ、または西鉄甘木線大堰駅からタクシーで約6分です。マイカーの場合は、大分自動車道筑後小郡インターチェンジから約5キロの距離にあります。

今村天主堂に関する作品

今村天主堂と隠れキリシタンの歴史を題材にした書籍として、佐藤早苗の『奇跡の村―隠れキリシタンの里・今村』や、帚木蓬生の『守教』があります。これらの作品は、この地域の歴史と信仰に触れる上で貴重な資料となっています。

今村天主堂は、その歴史的背景と美しい建築様式から、多くの人々にとって特別な場所です。耐震補強工事を経て、再びその姿を見せてくれる日が待ち望まれます。

もう一度検索