企業資源計画

エンタープライズリソースプランニング（ERP）とは

エンタープライズリソースプランニング（Enterprise Resource Planning、ERP）とは、企業全体の経営資源を有効活用する観点から、業務プロセスを統合的に管理し、経営効率の向上を目指す手法です。多くの場合、ソフトウェアとテクノロジーを用いてリアルタイムで情報が共有されます。日本語では企業資源計画とも呼ばれ、そのための統合型ソフトウェアは「ERPパッケージ」と呼ばれます。

ERPの基本概念

ERPは、組織内の多様な業務活動からデータを収集、保存、管理、分析するために使用されるビジネス管理ソフトウェアです。通常、統合アプリケーションスイートとして提供され、データベース管理システムによって維持される共通データベースを活用し、コアビジネスプロセスの統合されたビューを常に提供します。これにより、事業資源（現金、原材料、生産能力など）と、ビジネスにおける契約状況（注文、発注書、給与など）を追跡します。また、製造、購買、販売、会計など、各部門間でデータを共有し、外部の利害関係者との接続も管理します。

エンタープライズシステムソフトウェアは、さまざまなビジネス機能をサポートするコンポーネントを製造する巨大な産業であり、IT投資は企業の資本支出の中でも大きな割合を占めています。初期のERPシステムは大企業向けでしたが、現在では中小企業での導入も増加しています。ERPシステムは、組織内のシステムを統合し、エラーのないトランザクションと生産を促進することで、効率化に貢献します。ただし、ERPシステムの開発は従来のシステム開発とは異なり、さまざまなハードウェアやネットワーク環境で動作し、データベースを情報リポジトリとして利用します。

ERPの歴史

原点

ERPという言葉は、1990年代にガートナー社によって初めて使用されました。これは、資材所要量計画（MRP）から派生したもので、MRPの機能に加え、製造資源計画（MRP II）やコンピューター統合生産の機能も統合したものです。その後、製造以外の様々な分野へと機能が拡張されましたが、ERPという名称はそのまま使われ、当初よりも広い概念を指すようになりました。

当初は製造業向けのパッケージとして発展したERPシステムですが、ベンダーが財務、会計、保守、人事などの機能を追加した結果、1990年代半ばには広範なコアエンタープライズ機能をカバーするようになりました。この頃から、行政機関や非営利団体でもERPシステムが利用されるようになりました。

拡張

1990年代に急速な成長を遂げたERPシステムは、2000年問題によるシステム刷新の動きの中で、多くの企業に採用されるようになりました。当初はバックオフィス機能の自動化が中心でしたが、インターネットの普及とともに、顧客関係管理（CRM）などのフロントオフィス機能、E-ビジネスシステム、サプライヤ関係管理（SRM）などの機能も追加されました。

2000年には、「ERP II」という言葉が登場し、従業員やパートナーにリアルタイムアクセスを提供するWebベースのソフトウェアを指すようになりました。ERP IIは、従来のERPのリソース最適化やトランザクション処理を拡張し、企業間の連携を促進する役割を担います。また、第1世代のERPよりも柔軟性があり、企業の壁を越えて他のシステムと連携できる特徴があります。

近年では、モバイルデバイスとERPシステムの統合が進んでおり、ERPベンダーは他のビジネスアプリケーションとともに、ERPをこれらのデバイスに拡張しています。技術的な焦点は、ハードウェア、アプリケーション、ネットワーク、サプライチェーンの統合に移り、意思決定、利害関係者の関係、標準化、透明性、グローバリゼーションなど、より多くの機能と役割をカバーするようになっています。

ERPの特徴

ERPシステムには、一般的に以下のような特徴があります。

統合システム: 組織内の様々な業務プロセスを統合し、データの重複や不整合を解消します。
リアルタイム: ほぼリアルタイムでデータが更新され、最新の情報に基づいた意思決定を支援します。
共通データベース: 全てのアプリケーションが共通のデータベースを使用することで、一貫性を保ちます。
一貫したルックアンドフィール: モジュール間でデザインや操作性が統一されており、ユーザビリティを高めます。
段階的な実装: 情報部門による精巧な統合を伴うインストールは、段階的に実装されます。
導入オプション: オンプレミス、クラウドホスト、SaaSなど、多様な導入オプションが提供されています。

ERPの機能分野

ERPシステムは、以下の機能領域をカバーします。

財務会計: 総勘定元帳、固定資産、買掛金、売掛金、現金管理、財務統合など。
管理会計: 予算編成、原価計算、活動基準原価計算など。
人事: 採用、研修、給与計算、福利厚生、退職年金制度など。
製造: エンジニアリング、部品表、作業指示書、スケジューリング、品質管理など。
注文処理: 注文入力、信用調査、価格設定、在庫、出荷、販売分析など。
サプライチェーンマネジメント: サプライチェーン計画、サプライヤスケジューリング、購買、在庫、倉庫管理など。
プロジェクトマネジメント: プロジェクト計画、リソース計画、プロジェクト原価計算など。
顧客関係管理（CRM）: 販売、マーケティング、サービス、顧客連絡、コールセンターサポートなど。
データサービス: 顧客、サプライヤー、従業員向けのセルフサービスインターフェース。
教育機関管理: 学校や教育機関の運営を支援する機能。

ERPの導入

プロセスの準備

ERP導入には、既存のビジネスプロセスの変更が不可欠です。導入前に必要な変更を十分に理解していないと、プロジェクトが失敗する主な原因となります。組織がERPソフトウェアを導入する前に、ビジネスプロセスを徹底的に分析し、プロセスの近代化やERPシステムとの整合性を評価することが重要です。

ビジネスプロセスの不一致のリスクは、以下の方法で減少させることができます。

現在のプロセスを組織の戦略に連携させる。
各プロセスの有効性を分析する。
既存の自動化ソリューションを理解する。

分散型組織では、プロセスやルール、データが異なるため、導入が困難になることがあります。そのため、一部のビジネスユニットを優先して移行させたり、各ユニットに必要な変更を調整したりする必要が出てきます。

構成

ERPシステムの構成は、組織のニーズとシステムの設計とのバランスをとるものです。ERPシステムには多くの設定が含まれており、在庫会計のタイプや収益認識の方法などを選択できます。

2層ERP

2層のERPシステムでは、企業レベルと部門レベルで異なるシステムを同時に実行できます。各部門や子会社は独自のビジネスモデルを持つことがあり、2層ERPによって、より柔軟な対応が可能になります。ただし、2つのERPシステム間でデータをやり取りする必要がある場合には、追加の労力が生じることがあります。

カスタマイズ

ERPシステムは、業界のベストプラクティスに基づいていますが、組織の固有のニーズに合わせてカスタマイズが必要になる場合があります。カスタマイズには、ソフトウェアの書き換え、モジュールの追加、外部システムとの連携などが含まれます。ただし、カスタマイズは保守が複雑になるため、慎重な検討が必要です。一方、ビジネス慣行を変更して、提供されたERPの機能セットに合わせるという非技術的なオプションも存在します。

拡張

ERPシステムは、ベンダー提供のインターフェースを通じて、サードパーティのソフトウェアで拡張できます。これにより、製品データ管理、製品ライフサイクル管理、CRM、データマイニングなどの機能を追加できます。

データ移行

既存のシステムからERPシステムにデータを移行するプロセスは、実装の成功に不可欠です。移行するデータの特定、タイミングの決定、テンプレートの生成など、計画的なアプローチが必要です。既存のデータには互換性がない場合や、新しいシステムでは不要な場合があるため、データの移行は不完全になる可能性があります。そのため、移行後に既存のシステムをアーカイブとして保持することが重要です。

ERPのメリット

時間の節約: ビジネスプロセスを統合することで、時間とコストを削減できます。
迅速な意思決定: 管理者はエラーを減らし、迅速に意思決定を行うことができます。
透明性の向上: データが組織全体で共有され、透明性が向上します。
一元化: ビジネスデータを一元化し、複数のシステム間で同期する必要がなくなります。
セキュリティ: 単一の構造に統合することで、機密データを保護します。
柔軟性と機敏性: 変化に対応しやすく、柔軟で機敏な組織を形成できます。
コラボレーション: 共通のプラットフォームを提供することで、コラボレーションの機会を増やします。
標準化: プロセスが標準化され、一貫性が保たれます。

ERPのデメリット

カスタマイズの課題: 標準機能では対応できない場合に、カスタマイズが必要になり、複雑化します。
コスト: 導入や維持にコストがかかります。
ビジネスプロセスの変更: ERPに合わせるためにビジネスプロセスを再設計する必要が生じることがあります。
ベンダーへの依存: サポートやメンテナンス、アップグレードの費用が増える可能性があります。
情報共有への抵抗: 部門間で機密情報を共有することへの抵抗が生じる可能性があります。
独立性の低下: 統合されたビジネス環境では、特定の部門の独立性が低下する可能性があります。
トレーニング: 広範なトレーニングが必要となり、リソースを必要とします。
調和: システム全体の調和に時間がかかり、計画やコストが必要です。
課題の多さ: 実装後のプロジェクトチームの解散、インターフェースの問題、適切なテストの欠如、タイムゾーンの制限、オフショアリング、変更に対する人々の抵抗、データクレンジングなど、多くの課題が考えられます。

ポストモダンERP

ポストモダンERPは、従来のモノリシックなERPシステムに代わる概念として提唱されました。これは、コアERPソリューションを維持しながら、他の機能は専門的なソフトウェアソリューションで補完するという考え方です。クラウドベースとオンプレミスの両方のアプリケーションを組み合わせることで、より柔軟で迅速な変化への対応を目指します。ただし、どのビジネス機能をコアERPに含めるか、補完ソリューションでカバーするかについては、企業ごとに戦略を定義する必要があります。ポストモダンERPの利点は、変化への対応力と柔軟性ですが、管理するベンダーの数が増加し、統合の課題が生じる可能性があります。

まとめ

ERPは、企業全体の経営資源を統合的に管理し、効率化を図るための重要なツールです。導入にあたっては、十分な準備と計画が必要であり、組織のニーズに合わせたシステム構築が求められます。また、技術の進歩とともに、ERPの概念も変化しており、今後はポストモダンERPのような、より柔軟で変化に対応できるシステムが主流になることが予想されます。

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