伊佐庭如矢

伊佐庭如矢：道後温泉の近代化を推進した改革者

伊佐庭如矢（いさにわ ゆきや、1828年～1907年）は、愛媛県松山市道後温泉の近代化に多大な貢献を果たした人物です。町医者の子として生まれた彼は、学問に励み、私塾を開設して多くの弟子を育成しました。明治維新後、愛媛県の役人として松山城の存続にも尽力するなど、行政分野でも活躍しました。

彼の名は、特に道後温泉の改築と観光開発において広く知られています。1890年、道後湯之町の初代町長に就任した如矢は、老朽化が著しい道後温泉の改築を最大の目標としました。当時、財政難から改築は困難とされていましたが、如矢は自身の給料を全額改築費用に充てることを宣言。この決断に町民からは反対の声もあがりましたが、彼は熱意をもって町民を説得し、改築を実現させました。

改築には莫大な費用（13万5千円）がかかりましたが、その結果誕生した木造三層楼の本館は、当時としては非常に珍しい唐破風様式と鮮やかなぎやまんガラスが特徴的な、人々を魅了する建物となりました。さらに、霊の湯や皇室専用の浴室である又新殿を増築し、道後公園の整備にも着手。道後温泉全体の環境整備に尽力しました。

如矢の功績は改築だけにとどまりません。彼は道後温泉への観光客誘致を目的として、道後鉄道株式会社（後に伊予鉄道に吸収）を設立しました。軽便鉄道の開通により、道後温泉へのアクセスが向上し、観光客数は飛躍的に増加しました。関西方面からの航路開設と相まって、道後温泉は全国的に知られる観光地へと発展を遂げました。

如矢は町長として12年間務めた後、高齢を理由に退任。茶道や詩歌、謡曲などを楽しみながら余生を過ごしました。1907年、80歳で死去。彼の功績を称え、道後公園には銅像と石碑が建てられています。

如矢の生涯は、困難な状況の中でも信念を貫き、地域の発展に貢献した稀有な人物像を示しています。彼の行動は、現代においても、地域活性化の重要性とリーダーシップのあり方を示す重要な事例として学ぶことができます。道後温泉の現在の賑わい、そして日本の温泉文化の発展に、伊佐庭如矢の功績は深く刻まれています。彼の先見性と実行力は、後世に大きな影響を与え続けています。

伊佐庭如矢の経歴:

1828年：愛媛県松山市に生まれる
1856年：私塾「老楳下塾」を開設
1868年：家督を譲り、伊佐庭姓を名乗る
1873年：松山城の廃城危機を救う
1882年：山田郡郡長に就任
1883年：愛媛県高松中学校長を兼任
1886年：金刀比羅宮禰宜となる
1890年：道後湯之町初代町長に就任、道後温泉本館改築に着手
1893年：道後鉄道株式会社設立
1894年：道後温泉本館改築完了
1902年：道後湯之町長を勇退
1907年：死去

参考文献：

原田光三郎『伊佐庭如矢（翁概伝）』
加藤惠一『道後の夜明け　－伊佐庭翁ものがたり－』
『伊佐庭如矢翁偲び草』
『しこく8』百年を見すえ　町をつくる　～道後温泉を築いた　伊佐庭如矢～（NHK松山放送局）

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