伊勢電気鉄道511形電気機関車

伊勢電気鉄道511形電気機関車は、伊勢電気鉄道（後の近畿日本鉄道）が自社線の貨物列車牽引用として導入した電気機関車です。1929年の泗桑線開業に伴う貨物輸送需要の増加を見込み、本線用として導入されました。

概要

1929年1月30日の四日市 - 桑名間延長（泗桑線）開業により、伊勢電気鉄道線と養老電気鉄道線が桑名で接続。津・四日市から桑名経由で鉄道省東海道本線と接続する貨物輸送ルートが形成され、貨物輸送需要の増大が見込まれました。そこで、伊勢電気鉄道は1929年1月12日に設計認可、同年1月17日に竣工という形で、既存の501形よりも大型かつ強力な36t級本線用電気機関車を導入しました。

導入されたのは511形511・512の2両。電装品はイギリスの[イングリッシュ・エレクトリック]社デッカー工場、車体や台車などの機械装置は同じくイギリスの[ノース・ブリティッシュ・ロコモティブ]社で製造されました。完成時期は1928年12月、代価は71,000円でした。

車体

鉄道省6000形（6000 - 6002）の系譜を引く、出入り口扉が機関助士席側に寄せられた左右非対称の妻面が特徴的な箱形全鋼製デッキ付車体です。鉄道省6000形のような側面通風器は設置されておらず、抵抗器からの放熱は側面屋根肩部の二重重ね傘状通風器で行われました。側面には乗務員室窓が両端に設置され、その間に機器室用明かり取り窓がT字状に配置されています。

空気ブレーキ用エアータンクは、鉄道省6000形と同様に車体裾部に片側面2基ずつ、計4基が線路と平行に吊り下げられています。前照灯は切妻の妻面の上部、屋根板中央上部に筒型灯具が設置されました。前後に突き出したデッキは台車枠と結合され、端梁に自動連結器とバッファが組み込まれています。ナンバープレートは楕円形で、機関士席側面窓下と妻面の妻窓・乗務員扉の間に取り付けられ、機関助士席側面窓下にはEE社の製造銘板が貼付されました。

主要機器

制御器は、EE社デッカー工場が開発したデッカー・システムと呼ばれる電動カム軸式自動加速制御器を搭載。パイロットモーターでカム軸を回転させ、主回路を切り替えます。制御電源はEE社製CBT-7電動発電機から供給されました。

主電動機はEE社製DK-91-1C直流直巻整流子電動機を各台車に2基ずつ、計4基吊り掛け式で装架。歯数比は15:81=5.40です。

台車はNBL社製の板台枠に重ね板ばねによる軸ばねを組み合わせた2軸ボギー台車を2基備え、軸配置はB-Bです。台車間は中間連結器で連結され、牽引力は中間連結器と台車端梁に直接マウントされた連結器を介して伝達されます。

ブレーキはウェスティングハウス・エア・ブレーキ社(WABCO)製のNo.14ELブレーキを搭載。直通ブレーキと自動空気ブレーキを併設した、当時の標準的な機関車用空気ブレーキ装置です。基礎ブレーキ装置は片押し式で、鉄道省から両抱き式への変更指導を受けましたが、改造が難しいことと線形を理由に改造免除を嘆願し、以後の増備車は両抱き式とすることで認可されました。

集電装置はEE社製の菱枠パンタグラフを2基搭載していました。

運用

就役後、増備車である521形などと共に近鉄名古屋線の主力機として使用されました。当初2基搭載されていたパンタグラフは、戦前の段階で津寄りの1基が撤去されました。1938年9月12日には512が諏訪駅構内で関西急行電鉄モハ4と正面衝突する事故も発生しましたが、モハ4が大破したのに対し、512はデッキ破損程度で済みました。

1941年3月15日の関西急行鉄道成立の際、形式・番号の競合を防ぐため、デ11形デ11・デ12に改番されました。その後も名古屋線系統で使用されましたが、伊勢湾台風後の1959年の名古屋線改軌工事の際に改軌対象から外れ、養老線所属となりました。1972年1月には列車無線装置の追加、ATS機器の搭載、前照灯のシールドビーム2灯化などの改造を受け、塗装もマルーン1色を基本としつつ妻面に黄色の警戒帯を巻く近鉄電気機関車の標準色に変更。養老線で貨物列車牽引の主力機として使用されました。デ11が1983年4月、デ12が1984年7月にそれぞれ除籍され、形式消滅。廃車後は解体処分されています。

同系車

EE社（電装品）およびNBL社（機械）のコンビによる鉄道省6000形を小型化した設計のデッキ付き箱形電気機関車は、大正末から昭和初期にかけて関東私鉄を中心に導入されました。

秩父鉄道デキ1形デキ6・デキ7（1925年）
青梅鉄道1号形1および2号形2 - 4（1926年から1930年）
総武鉄道デキ1形デキ1 - デキ3（1929年）
東武鉄道ED101（1930年）

これらの機関車は、自重や出力、寸法、明かり取り窓のレイアウトなどに差異はあるものの、板台枠構造の台車、左右非対称の妻面レイアウト、電動カム軸式自動加速制御器といった基本構造を共通としています。初期に輸入された鉄道省向け各形式で初期故障が多発した教訓から改良設計されたこれらの私鉄向け機関車は、安定した性能を発揮。伊勢電気鉄道が本形式の増備車として、基本構成を模倣した521形を新造したことからも、その影響力の大きさが伺えます。

なお、これらの私鉄向けEE社＋NBL社製電気機関車群のうち、青梅鉄道2号形3・4と東武鉄道ED101の3両が現存しています。

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