伊原五郎兵衛とは？意味をやさしく解説

伊原五郎兵衛：鉄道事業と地域社会への貢献

伊原五郎兵衛（1880年 10月8日 - 1952年 4月3日）は、長野県飯田市出身の実業家であり、鉄道経営者、そして衆議院議員としても活動しました。彼は、激動の時代の中で、鉄道事業の発展に尽力し、地域社会への貢献を続けた人物です。

生い立ちと家業

1880年、伊原五郎兵衛は、飯田の漆器店近江屋の三男として生まれました。幼名は恒次といい、後に9代目五郎兵衛を襲名します。彼は、県立下伊那中学飯田支校（現長野県飯田高等学校）から松本中学校へと進み、さらに第一高等学校、東京帝国大学へと進学しました。しかし、次兄の戦死と父の急逝により、1906年に家督を継ぐため飯田に戻ることになります。

伊那電気鉄道の設立

伊原家は、以前から伊那地方での鉄道敷設を計画していました。父である8代目五郎兵衛は、1894年に辰野から飯田に至る電車鉄道の設立を計画し、内務大臣に請願書を提出しました。しかし、父の急逝により、恒次（後の9代目五郎兵衛）がその事業を引き継ぐことになりました。彼は、1907年に伊那電車軌道株式会社を設立し、1909年には辰野・伊那松島間の路線を開通させ、長野県初の電車を走らせることに成功しました。その後も路線延伸に尽力し、1927年には辰野・天竜峡間が全通しました。

松本電気鉄道（現アルピコ交通）での活躍

1928年、伊原五郎兵衛は筑摩電気鉄道（後の松本電気鉄道、現アルピコ交通）の社長に就任しました。当時、会社は経営難に陥っており、彼はその立て直しに奔走しました。バス事業を拡大し、電車の運行と調和させることで、経営を安定させようとしました。1932年には、社名を松本電気鉄道に変更し、新たなスタートを切りました。

しかし、経営改革は困難を極めました。1935年には株主との対立が激化し、一時的に社長職を解任される事態にもなりました。しかし、1937年には東京控訴院の判決により復職し、再び経営を指揮することになりました。彼は、観光バス事業の強化にも力を入れ、1935年には初めて乗合自動車を上高地に乗り入れさせることに成功しました。

戦時下の苦難と地域社会への貢献

日中戦争が始まると、ガソリンなどの燃料統制が強化され、バス事業は大きな制約を受けました。また、戦時体制が深まるにつれて、人員不足も深刻化し、1943年には電車浅間線に初めて女子乗務員が乗務するようになりました。1944年には、運輸通信省の臨時監査の結果、手続き不備を理由に社長を解任されました。しかし、彼はその後も地域社会への貢献を続け、敗戦後の食糧難の中で、伊那谷での米増産のために用水路建設に尽力しました。

晩年と死後

伊原五郎兵衛は、1952年 4月3日に72歳で亡くなりました。その功績を称え、同年1月には飯田駅前に「伊原五郎兵衛頌徳碑」が建てられました。彼の生涯は、鉄道事業の発展と地域社会への貢献に捧げられ、多くの人々に影響を与えました。

年譜

1880年（明治13年）：長野県飯田町に生まれる。
1899年（明治32年）：松本中学校卒業、第一高等学校入学。
1906年（明治39年）：東京帝国大学卒業、家督相続のため帰郷。
1907年（明治40年）：伊那電車軌道株式会社設立。
1909年（明治42年）：辰野－伊那松島間が開通。
1915年（大正4年）：衆議院議員選挙に落選。
1927年（昭和2年）：辰野－天竜峡間が開通。
1928年（昭和3年）：衆議院議員選挙で当選、筑摩電気鉄道社長に就任。
1935年（昭和10年）：筑摩電気鉄道株主総会で紛糾、取締役職務執行停止。
1937年（昭和12年）：東京控訴院判決により社長復帰。
1944年（昭和19年）：運輸逓信省の臨時監査で社長を解任。
1952年（昭和27年）：伊原五郎兵衛頌徳碑が建立、死去。

参考文献

松本電気鉄道株式会社社史編集委員会『曙光－80年のあゆみ』松本電気鉄道株式会社、2000年3月
『丸之内紳士録. 昭和6年版』（国立国会図書館デジタルコレクション）

伊原五郎兵衛