伊号第百七十五潜水艦

大日本帝国海軍の潜水艦、伊号第百七十五潜水艦は、伊百七十四型潜水艦の二番艦として歴史に名を刻んでいます。竣工時の艦名は伊号第七十五潜水艦でした。太平洋戦争において、アメリカ海軍の護衛空母リスカム・ベイを撃沈したことで特に知られています。

建造から実戦投入

本艦は、1934年（昭和9年）に策定された第二次補充計画（マル2計画）に基づき、三菱神戸造船所にて建造が始まりました。1934年11月11日に起工、1937年9月16日に進水し、1938年12月18日に伊号第七十五潜水艦として竣工しました。竣工後は呉鎮守府に所属し、第二艦隊第2潜水戦隊第11潜水隊に編入。その後、部隊改編を経て第六艦隊に所属しました。

太平洋戦争開戦時には、第六艦隊第3潜水戦隊第11潜水隊の一員として戦いに臨みます。1941年11月11日に佐伯を出港し、クェゼリンを経由してハワイ作戦に参加。真珠湾攻撃の際はオアフ島南方で敵艦艇の偵察任務に就き、12月15日にはマウイ島カフルイへの砲撃を実施しました。12月17日にはハワイ南方沖でアメリカ貨物船マニニ（3,252トン）を雷撃により撃沈。さらに12月24日にはパルミラ環礁の米軍陣地を砲撃しましたが、陸上砲台の反撃を受け退避しました。その後、ミッドウェーやアリューシャン列島方面の偵察任務を遂行し、1942年2月19日に横須賀に帰港しました。

1942年5月20日、本艦は伊号第百七十五潜水艦と改称されます。同日、第二次K作戦に参加するためクェゼリンを出撃しオアフ島沖に進出しましたが、作戦は中止となりクェゼリンへ帰投しました。

その後、1942年7月よりオーストラリア東方海域での通商破壊作戦に従事。豪貨物船アラーラ、ムラダを撃破、自由フランス鉱石運搬船カグーを撃沈、豪トロール漁船ダレンビーを砲撃により撃破・沈没させるなどの戦果を挙げました。しかし、同年8月にはアメリカ軍機の攻撃により損傷し、ラバウルでの修理を余儀なくされました。修理後、ソロモン諸島方面への哨戒に出ましたが、戦果は得られませんでした。11月にはトラック泊地で給油船と衝突事故を起こし再び損傷、横須賀へ移動して修理を受けました。1943年3月15日には第11潜水隊の解隊に伴い、第12潜水隊に編入されました。同年5月からはキスカ島撤退作戦にも参加し、物資輸送や人員収容任務に貢献しています。

護衛空母リスカム・ベイ撃沈

伊175の戦歴において特筆すべきは、1943年11月のギルバート方面での戦闘における戦果です。同年9月19日に呉を出港し、トラックを経てウェーク島方面へ進出していた伊175は、11月19日にマキンへの米軍来襲を知り、同島へ全速力で向かいました。11月23日、マキンとタラワの両島が陥落したまさにその日、伊175はマキン沖に到着します。

11月25日未明、ブタリタリ環礁南西沖を哨戒中の伊175は、アメリカ海軍の護衛空母リスカム・ベイ、コーラル・シー、コレヒドールを中心とする機動部隊を発見しました。この時、一時的に米戦艦ニューメキシコのレーダーに捉えられましたが、伊175は搭載していた逆探装置によりレーダー波を探知。即座に急速潜航を行うことで、敵にレーダーの誤反応であると錯覚させ、危険を回避しました。艦長は艦内放送で敵艦隊、特に空母への襲撃を決断した旨を全乗員に伝え、襲撃運動を開始しました。

伊175は巧みに米艦隊の輪形陣を突破し、リスカム・ベイに対して約900メートルの距離まで接近することに成功します。午前2時5分、リスカム・ベイが艦載機を発艦させるため風上に艦首を向けた際、図らずもその横腹を伊175にさらす形となりました。午前2時10分、伊175は魚雷4本を発射。このうち1本がリスカム・ベイの機関室後部、航空機用爆弾庫の近くに命中しました。被雷の衝撃は凄まじく、航空機用爆弾庫に収められていた爆弾などが次々と誘爆を引き起こし、リスカム・ベイは壮絶な大爆発を起こしました。他の魚雷はコーラル・シーとコレヒドールの至近を通過していきました。大爆発によりリスカム・ベイの船体後半部は瞬時に吹き飛び、前半分も右に傾きながら午前2時33分に沈没。これにより、第52.3任務群司令ヘンリー・ムリニクス少将を含む644名もの乗組員が戦死するという大損害をアメリカ海軍に与えました。

攻撃成功後、伊175は現場からの離脱を試みますが、護衛艦艇による激しい爆雷攻撃に晒され、少なからぬ損傷を負いました。しかし、辛くもこれを耐え凌ぎ、戦場を離脱。11月27日にクェゼリンに到着し、僚艦からの燃料補給を受けました。翌28日にはクェゼリンを出港し、12月1日には無事にトラック島にある第六艦隊根拠地に帰還を果たしました。このギルバート方面の戦闘に参加した日本潜水艦9隻のうち、帰還できたのはわずか3隻であり、伊175は貴重な生還艦の一隻となりました。当時の艦内での緊迫した状況は、後に軍医長の手記として残されています。

最期

リスカム・ベイ撃沈という大きな戦果を挙げた伊175でしたが、その運命は長くは続きませんでした。1944年1月27日、伊175はトラックを出港し、マーシャル諸島北東海域へ向かいます。1月31日にクェゼリンの戦いが勃発したため、同島方面へ全速で向かうよう命令を受けますが、その後の消息は途絶えました。

アメリカ側の記録によると、1944年2月17日朝、マーシャル諸島のタロア島北東沖で船団を護衛していた米駆逐艦ニコラスによってレーダーで発見されました。砲撃を受けた伊175は潜航しましたが、ニコラスによる執拗な爆雷攻撃により撃沈されました。この戦闘により、第十二潜水隊司令小林一中佐、艦長の田畑直中佐以下、乗員100名全員が戦死しました。沈没地点はタロア島北東約200浬付近、北緯10度34分、東経173度31分とされています。

伊号第百七十五潜水艦は、1944年3月26日にクェゼリン方面で亡失と認定され、同年7月10日に除籍されました。

本艦の戦果は、撃沈4隻（合計10,080トン）、撃破2隻（合計6,624トン）と記録されています。

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