伊藤ていじ

伊藤ていじ：日本の建築史を彩った巨星

伊藤ていじ（1922年1月11日 - 2010年1月31日）は、日本の建築史、建築評論、文筆の世界で多大な足跡を残した人物です。本名は伊藤 鄭爾。工学博士の学位を持ち、日本の伝統的な民家研究に情熱を注ぎました。工学院大学の学長および理事長、ワシントン大学の客員教授、文化財保護審議会委員、文化財建造物保存技術協会の理事長など、数々の要職を歴任し、日本の建築文化の発展に大きく貢献しました。

生い立ちと学問への道

伊藤ていじは、岐阜県安八郡北杭瀬村（現在の岐阜県大垣市）に生まれました。旧制大垣中学校、第四高等学校を経て、東京帝国大学第二工学部建築学科に進学。1945年に卒業後、東京大学第二工学部大学院で関野克に師事しました。大学院修了後は、東京大学で助手として教鞭を執りますが、肺結核の発症により7年間の療養生活を余儀なくされます。病からの回復後、東京大学生産技術研究所特別研究員、ワシントン大学客員教授を経て、工学院大学に移籍しました。

民家研究への情熱と町並み保存運動

伊藤が建築史家としての道を志すきっかけとなったのは、1954年、東京大学工学部建築学科の関野克教授と共に行った奈良県今井町の町屋調査でした。この調査で、倒壊寸前だった今西家を重要文化財として推薦し、1957年に指定を受けたことが、日本の民家建築が文化財として注目される契機となり、日本における「町並み保存運動」の先駆けとなりました。1956年には、「狂い咲きの桂離宮」を『新建築』に発表し、建築評論家としての活動も開始しました。

建築評論と著作活動

伊藤は、磯崎新や川上秀光らと共同で「八田利也（はったりや）」のペンネームを用いて建築論を執筆していました。1961年には、八田名義で『現代建築愚作論』を上梓し、現代建築に対する痛烈な批判を展開しました。また、1961年には、論文「日本民家史の研究（中世住居の研究）」で日本建築学会賞を受賞し、工学博士号を取得。1975年からは工学院大学の学長を務めました。

山形県中山町の柏倉九左衛門家住宅調査や山形県下蔵座敷調査などの調査研究にも尽力し、自然保全を目的とした山形寒河江川集水域生態計画なども手がけました。

伊藤は、写真家の二川幸夫との共同制作で、日本の民家を紹介する『日本の民家』シリーズを刊行し、『高山・白川』と『山陽路』で第13回毎日出版文化賞を受賞しました。その他、『中世住宅史』『日本デザイン論』『数奇屋』『谷間の花が見えなかった時』『終わらない庭』、鎌倉時代の建築様式を先導した高僧の評伝『重源』など、数多くの著作を世に送り出しました。

晩年と遺産

伊藤ていじは、2010年1月31日に呼吸不全のため逝去しました。88歳でした。彼の業績は、日本の建築史研究、民家保存運動、建築評論に大きな影響を与え、後世に多大な遺産を残しました。彼の著作や研究は、今もなお、多くの人々に読み継がれ、日本の建築文化に対する理解を深める上で重要な役割を果たしています。

伊藤ていじは、日本の建築界における不朽の存在として、その名が語り継がれていくことでしょう。

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