伊藤介亭

伊藤介亭

伊藤介亭（いとう かいてい、貞享2年12月10日（1686年1月4日） - 明和9年10月24日（1772年11月18日））は、江戸時代中期の儒学者です。名は長衡（ながひら）、字は正蔵（せいぞう）、別号に謙々斎（けんけんさい）と称しました。没後、その学識と人柄を称えられ、謙節先生（けんせつせんせい）という私諡が贈られています。

経歴

儒学者として名高い伊藤仁斎の三男として、京都に生まれました。幼い頃に父を亡くしたため、長兄である伊藤東涯から儒学の教えを受けました。その学才は早くから認められ、享保11年（1726年）には、摂津国高槻藩（現在の大阪府高槻市）の藩主であった永井直期に招かれ、藩の儒官となりました。しかし、介亭は京都を離れることなく、高槻藩に仕えながらも京都にとどまりました。

介亭の門下からは、服部蘇門（はっとりそもん、号は嘯翁（しょうおう））や永田東皐（ながたとうこう、号は観鵞（かんが））など、後世に名を残す多くの人物が輩出されました。明和9年（1772年）10月24日に88歳で亡くなりました。遺体は、京都市右京区嵯峨にある二尊院に葬られています。二尊院は、伊藤家の先祖代々の墓所となっています。

人物

介亭の人となりについて、伴蒿蹊（ばんこうけい）は著書『近世畸人伝』の中で、「性質篤実に過ぎて魯に似たり」と評しています。この言葉は、介亭が極めて誠実で、実直な人柄であったことを表しています。

逸話

介亭の人柄を表す逸話がいくつか残されています。

介亭の母である瀬崎氏は、雷を非常に恐れていました。介亭は講義中に空が曇ると、すぐに本家のある堀川へと走って帰るのが常でした。
弟たちは青楼へ通い、朝帰りをしていました。兄に見つからないように「火事だ！」と叫び、介亭が屋根に上っている隙に家に入るということを繰り返していました。奥田三角という人物が諫めると、「本当に火事だったときに油断してはいけないから」と答えました。
* ある宴席で、池大雅が指頭画（筆を使わずに指で描く絵）を披露しました。それを見た介亭は、「良いことを覚えられましたね。田舎などへ行かれて筆や硯がない場所では重宝するでしょう」と言いました。それを聞いた大雅は恥じ入り、それ以降、指頭画を試みることはなかったと言われています。村瀬栲亭は、「介亭先生は篤厚で皮肉など言う人ではない。実際そう思われたのだろう。それが大雅の心に深く触れたのが面白い」と評しました。

これらの逸話から、介亭が非常に誠実で温厚な人物であったことがうかがえます。また、相手を思いやる優しさや、少し抜けたところもある人柄が偲ばれます。

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