伊藤国光

伊藤国光の軌跡

伊藤国光（いとう くにみつ）は1955年1月6日生まれ、長野県伊那市西箕輪出身の陸上競技選手である。長距離とマラソンの分野で活躍し、数々の日本記録を樹立したが、意外にもマラソンでの勝利には恵まれなかった。彼は、その異彩を放つ選手として知られ、多くの記録とともに不思議な存在感を持っていた。

高校時代から陸上競技に注力し、伊藤は長野県上伊那農業高等学校での全国高等学校駅伝競走大会でメイン区間の1区に3年連続で出場。1972年には区間賞も受賞しており、この時期からその才能は周囲に認められるようになった。卒業後はカネボウ陸上競技部に進み、さらなる活躍を見せる。

カネボウ所属時代の伊藤は、10000mの日本新記録を打ち立てるほか、マラソンや30kmロードレース、また20000mや10マイルロードレースでも日本最高記録を達成した。1976年には、モスクワオリンピックの10000mに出場する日本代表。1981年のアジア[[陸上競技選手権大会]]では見事に10000mで金メダルを獲得した。

彼の選手生活は、著名なマラソン選手である瀬古利彦や宗茂・宗猛と重なり、彼らと並ぶ実力がありながらも、伊藤は終生マラソンオリンピック代表として選出されることはなかった。マラソン大会に24回出場したが、惜しくも優勝を果たすことはできず、1986年の北京国際マラソンでは2時間07分57秒と、日本記録を更新したものの、児玉泰介に次ぐ2位に終わった。

「伊藤のマラソン未勝利」は「世界マラソン界の七不思議」とも称され、彼の独特な走り方とレース中の癖が、勝負強さに影響を及ぼしたという見解もある。彼は特に、レース中に苦しくなると首を振る癖があり、この仕草がライバルにとっての好機となっていた。また、スパートを早めにかけるスタイルは、しばしば逆転を許す結果にもなった。実際、彼は1964年東京オリンピックのマラソンで独走したアベベ・ビキラに強く影響を受け、自身もレースのゴールまで全速力で駆け抜けるスタイルを貫いていた。そのため、30キロ地点を過ぎても一気にペースを上げてしまうことがあったのだ。

1991年にボストン[[マラソン]]で8位となった後、伊藤は選手としての第一線から引退を決意。この時、彼は「勝てなかったことをあまり気にしていない。むしろ、自己ベストで走れたことを誇りに思う」と語っている。

現役引退後はカネボウの監督として指導の道へ進む。彼の指導によって、2000年シドニーオリンピックの10000mでの7位入賞を果たしたほか、元マラソン日本記録保持者の高岡寿成など、多くの選手を育てた。また、駅伝では1996年に旭化成の7連覇を阻止し、長いブランクを経て4度目の優勝を果たした。

その後、2012年には専修大学陸上競技部の監督に就任したが、2016年に退任。2018年からはJFEスチール競走部の監督として再び指導者としての実力を発揮、2023年までその役職を務めた。彼の故郷である伊那市では、地元の高校新人駅伝競走大会において、「伊藤国光杯」の授与が行われている。

伊藤国光の存在は、陸上競技界において未だに影響を与え続けている。

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