伊藤氏

伊藤氏（いとうし）

伊藤氏は、日本の氏族の一つです。そのルーツは、大きく分けて二つの流れがあります。

一つは、藤原秀郷の流れを汲む武士、伊藤基景に始まります。彼は伊勢国に領地を得て、「伊勢の藤原」を意味する「伊藤」を名字としました。これが伊藤氏の名の由来の一つです。

もう一つは、藤原南家の流れを汲む工藤氏を源流とする家系です。この家系の一部子孫が伊東に移り住み、「伊東工藤」と称しました。この「伊東工藤」が後に「伊東」、そして同音異字の「伊藤」へと変化していったとされています。また、伊豆を離れた伊東氏が藤原の「藤」へ変えた流れもあります。

伊藤氏の系譜

伊藤氏には、様々な家系が存在します。ここでは、特に有名な家系について解説します。

伊藤家 (公爵)

この家系は、萩藩の中間であった水井武兵衛（後に伊藤直右衛門と改名）の養子、伊藤博文に始まります。伊藤博文は、明治維新における功績により、1884年に伯爵、1895年に侯爵、そして1907年には日露戦争の功績により公爵に陞爵しました。公爵の爵位を授かっていた時代の当主には、伊藤博文、伊藤博邦、伊藤博精がいます。

伊藤家（水戸藩重臣）

慶長8年(1603年)に徳川頼房に仕えた伊藤友玄（いとうともはる）を初代とする家系で、水戸藩（水戸徳川家）の重臣として代々仕えました。

伊藤家 (将棋)

伊藤家は、江戸時代の将棋家元（将棋三家）の一家として知られています。三世名人である初代伊藤宗看を祖としています。二代大橋宗古の娘婿であり、在野の棋客との将棋で実力を示した初代宗看は、宗古の跡を継いで三世名人となりました。さらに、大橋本家が宗古の孫の代で断絶すると、実子の宗銀（後の五代大橋宗桂）を養子に送り、大橋本家を存続させるなど、家元制度の定着に尽力しました。宗看の跡を継いだ二代宗印は養子でしたが、棋才に恵まれ五世名人となりました。二代宗印の長男である伊藤印達は、六代大橋宗銀との争い将棋で有名でしたが、夭折しました。宗印の跡は三代伊藤宗看が継ぎました。

三代宗看は父や兄と同様に棋才に恵まれ、将棋技術の向上に努めると共に、詰将棋の発展に力を尽くしました。三代宗看の『将棋無双』とその弟で養子の初代伊藤看寿の『将棋図巧』は傑作として知られています。

三代宗看の弟である宗寿が大橋本家を継ぎ、八代大橋宗桂となるなど、三代伊藤宗看の時代の伊藤家は全盛期を迎えましたが、三代宗看の晩年に次期名人の座を期待されていた初代看寿が早世し、三代宗看の死後に跡を継いだ四代伊藤得寿も早世するなどして、伊藤家は衰退しました。伊藤家を継いだのは「菓子屋の子胤」といわれた鳥飼忠七であり、五代伊藤宗印と名乗りました。さらにその跡を継いだ松田印嘉が六代伊藤宗看を名乗り、十世名人となりました。宗看の没後、名人位は空位となり、幕末には御城将棋も中止となるなど、伊藤家のみならず将棋界全体が衰退しました。

明治時代、家元制度廃止後の将棋界の再興に尽力した一人が、伊藤家当主の八代伊藤宗印であり、十一世名人を襲位しましたが、大橋本家の流れを汲む小野五平や大橋分家の流れを汲む大矢東吉と対立するなど、将棋界の分裂状態を解消できないまま没しました。宗印の血筋は絶えたとされていますが、その門人から小菅剣之助、関根金次郎が出ています。

伊藤家の墓所は、東京本所の本法寺にあります。

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