伊賀久隆

伊賀久隆（いが ひさたか）

伊賀久隆は、戦国時代から安土桃山時代にかけての武将であり、備前国津高郡の国人領主である備前伊賀氏の当主でした。伊賀守、左衛門尉を受領名としました。居城は虎倉城です。

生涯

勢力拡大

備前伊賀氏は、鎌倉時代に政所執事を務め伊賀氏事件を引き起こした伊賀光宗の子孫で、備前国長田荘の地頭となった一族の流れを汲みます。久隆の名が史料に現れるのは天文13年（1544年）のことで、清水寺の本堂再建に関する記録があります。この頃には既に家督を継承していたと考えられています。

当初、久隆は松田氏に仕え、その背後にある出雲国の尼子氏に従い、安芸国の毛利氏に従う備中国や美作国の国人勢力と争いました。しかし、尼子氏の衰退とともに松田氏は次第に東からの浦上氏の圧力に抵抗できなくなり、永禄5年（1562年）に松田元輝は宇喜多直家との和議に応じました。この際、元輝の子である元賢は直家の娘を、久隆は直家の妹をそれぞれ妻に迎え、宇喜多氏との婚姻関係を結びました。この縁により、久隆は宇喜多氏と親密な関係を築く一方で、日蓮宗に深く傾倒し、領内統治を混乱させ、諫言を聞き入れなくなったため、松田親子との関係は次第に悪化していきました。

久隆と直家

永禄11年（1568年）、宇喜多直家から、邪魔になった松田親子の排除と、西の三村氏や毛利氏への備えとして、松田氏の居城である堅牢な金川城の乗っ取りを打診されると、久隆はこれに同意しました。

同年7月5日、松田親子をはじめ、松田元脩などの重臣が金川城に招かれたこの日を狙い、久隆は金川城を包囲しました。事前に城内に忍ばせていた手勢に拠点を制圧させ、元輝を討ち取ることに成功し、金川城を正門の守りを残すのみという状況まで追い込みました。その後、城兵の抵抗に遭いつつも、7月7日には城を落とし、翌日には城を脱出していた元賢も討ち取り、直家の金川城攻略に大きく貢献しました。この戦いの後、久隆は松田領の一部を加増され、所領は15万石程にまで達し、宇喜多氏に従う諸将の中でも最大級の所領を誇る実力者となりました。

その後、浦上宗景と断交し毛利氏と結んだ直家に従い、天正6年（1578年）の上月城の戦いに参加するなど活躍しました。しかし、翌天正7年（1579年）に宇喜多氏が毛利氏と敵対する織田氏方へと転じたことにより、状況は一変。虎倉城は毛利氏との領地の境界を間近に置く最前線となり、侵攻の脅威に晒されることになります。

虎倉合戦と加茂崩れ

天正8年（1580年）3月13日、毛利軍は15000の兵で岡山城の西に位置する辛川口に侵攻し惨敗（辛川崩れ）した後、南下し、本陣を虎倉に程近い備中竹ノ荘へと移すと、備中と美作との連絡路を確保するために虎倉城攻略の準備を始めました。

これに対し、久隆は敢えて地の利を生かせる虎倉周辺まで毛利軍をおびき寄せて結集した兵力で迎え撃つ作戦に出ました。そして同年4月14日、緒戦に快勝を収めた毛利軍の先鋒部隊は虎倉城への進軍を開始（虎倉合戦）。伊賀勢は下加茂の山中でこれを強襲、現地の地理に疎い毛利軍を弓隊や遠藤兄弟の指導を受けた精鋭の鉄砲隊が狙い撃ちし、毛利方の先鋒部隊の大将である粟屋元信を始めとする有力武将らを討ち取りました。さらに久隆は逃げる毛利軍を追撃し250余人を討ち取りながらも伊賀勢の死者はほぼ皆無という大勝を収めました（加茂崩れ）。度重なる大敗にこの遠征に行軍していた毛利輝元もやむなく後事を小早川隆景に任せて安芸へと帰還しました。

謎の死と暗殺

これらの活躍を見せていた久隆でしたが、天正9年（1581年）4月、突如として謎の急死を遂げました。『桂岌円覚書』によれば、宇喜多直家の家臣である河原四郎右衛門尉に毒を盛られたとされています。これは織田氏への寝返りに不満を持つ宇喜多家臣の流言に騙された直家によって毒を盛られたなど、いくつかの説が残っています。また、直家はこの頃「尻はす」という出血を伴う悪性の腫物を患いかなり弱っており、自分の死に際して広大な所領を持つ久隆の存在を危惧したという説もあります。

なお、『備前軍記』では虎倉合戦が1574年の4月13日、久隆の没年は1578年とされていますが、これは毛利方に残された『萩藩閥閲録』『桂岌円覚書』などの複数の史料と記述が大きく食い違います。近年では、『備前軍記』の記述は誤りであった可能性が高いとされています。

系譜

父：伊賀勝隆
母：不詳
室：宇喜多興家娘
生母不明の子女
男子：伊賀家久（?-1587/94） - 甥とも
男子：伊賀久道 - 久良とも

脚注

注釈

出典

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