佐紀陵山古墳

佐紀陵山古墳

佐紀陵山古墳は、奈良県奈良市山陵町に位置する前方後円墳で、佐紀盾列古墳群を構成する古墳の一つです。宮内庁によって第11代垂仁天皇の皇后、日葉酢媛命（ひばすひめのみこと）の陵墓「狭木之寺間陵（さきのてらまのみささぎ）」として治定されています。

概要

『日本書紀』には、殉死の代わりに埴輪を御陵に立てたという説話が記されており、この古墳がその舞台ではないかと考えられています。古墳の配置にも特徴があり、西側に隣接する佐紀石塚山古墳のくびれ部分に、佐紀陵山古墳の後円部が食い込む形となっています。この配置から、佐紀陵山古墳の方が先に築造されたと推定されています。

古墳の規模は、全長207メートル、前方部幅約87メートル、後円部径131メートル、前方部高さ12.3メートル、後円部高さ約20メートルで、三段に築成されています。

1915年（大正4年）には大規模な盗掘事件が発生し、遺物が持ち出されましたが、後に犯人が検挙され、出土遺物は回収されています。翌年には宮内省による復旧工事が行われ、石室付近や出土遺物に関する詳細な調査と記録作成が行われました。

盗掘事件と復旧工事に伴う調査

復旧工事の記録は関東大震災で焼失しましたが、京都大学考古学教室の梅原末治が記録の写しを手元に残しており、それは宮内庁書陵部に保管されています。出土遺物は復旧の際に石室内に埋め戻されましたが、写真、拓本、石膏模造品などが残されています。

復旧工事に伴う調査には、梅原末治の他に、東京帝室博物館（現在の東京国立博物館）に勤務していた考古学者の和田千吉も参加し、後円部頂上の埴輪を樹立した埋葬施設の復原図試案を作成しています。

石室構造

後円部頂上中央に位置する竪穴式石室は、主軸を南北にとり、長さ8.55メートル、幅1.09メートルと巨大です。東西の側壁は扁平な割石を小口積みしていますが、南北の側壁は大きな一枚石でできており、その上半中央部には孔が開けられています。同様の石室は大阪府柏原市の松岳山古墳にも見られます。

石室内には長大な木棺があったと推定されますが、調査当時は腐朽して消滅していました。天井石は5枚あり、それぞれ前後の短側石に縄突起が付けられています。天井石の上には屋根形の石が置かれ、表面には直線の平行文様が線刻されています。これは魔除けとして施されたものと考えられています。

石室付近の埴輪群

石室上部は2メートルほど土を盛って円形の盛土を造り、その上にキヌガサ形埴輪と盾形埴輪が立てられていました。特に土壇中央のキヌガサ形埴輪は大きく、高さ1.5メートル、横幅2メートルにも及びます。キヌガサの上部には直弧文が一周し、突出した部分（ヒレ）も直弧文で飾られています。盾形埴輪も木製の盾を模したものと推測され、周縁部と中央の横帯が直弧文で飾られています。

出土遺物と年代

石室内からは、以下の遺物が出土しています。

銅鏡：流雲文縁変形方格規矩鏡仿製鏡、唐草文縁変形方格規矩鏡、直弧文縁変形内行花文鏡など（仿製鏡で舶載鏡より大きい）
石製腕飾り類：車輪石、鍬形石、石釧
石製模造品：刀子、斧、高坏、椅子
その他：管玉、琴柱形石製品、石製臼

これらの埴輪や石室内の遺物の構成から、古墳時代前期末頃の古墳と考えられています。

各地の佐紀陵山型古墳

佐紀陵山古墳と相似形の古墳は、五色塚古墳（兵庫県）、膳所茶臼山古墳（滋賀県）、御墓山古墳（三重県）、摩湯山古墳（大阪府）など各地に存在します。これらの「佐紀陵山型」前方後円墳が畿内を取り囲むように分布することから、4世紀後半に畿内を中心とした領域支配が存在したとする説があります。

参考文献

河上邦彦「日葉酢媛命陵」『大和の古墳を語る』六興出版、1984年、42-43頁。
中井一夫「佐紀陵山古墳」『日本の古代遺跡4 奈良北部』保育社、1982年、144-146頁。
森浩一「佐紀陵山古墳の盗掘事件と後円部の様子」『天皇陵古墳への招待』筑摩書房、2011年、117-124頁。

関連項目

五色塚古墳 - 佐紀陵山古墳と同規格とされる。

外部リンク

* 佐紀陵山古墳 - 大和の遺跡（奈良県立橿原考古学研究所附属博物館）

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