内行花文鏡

内行花文鏡とは

内行花文鏡（ないこうかもんきょう）は、古代中国の後漢時代に盛んに用いられた青銅製の鏡です。特徴的なのは、鏡背の中央にある鈕（ちゅう、つまみ）の周囲に、内向きの円弧を連ねた文様が巡らされている点です。この連弧文が花弁のように見えることから、日本では「内行花文鏡」と呼ばれるようになりました。

歴史と分布

内行花文鏡は、後漢初期に黄河流域北部を中心に流行しました。その起源は、連弧文銘帯鏡の銘帯部分が斜角雷文帯に変化したことにあると考えられています。中国各地で発見されているほか、朝鮮半島の楽浪古墳や日本列島でも、弥生時代から古墳時代にかけて出土しています。特に、古墳時代前期から中期にかけての出土例が多く見られます。

日本では、初期には北部九州からの出土が目立ちました。三雲南小路遺跡では31面、有田・平原遺跡では8面の内行花文鏡が出土しており、この地域での重要性がうかがえます。輸入された鏡だけでなく、国内で模倣された仿製鏡（倭製鏡）も多数出土しており、中には大陸では見られない大型の内行花文鏡も含まれています。

特徴的な文様とバリエーション

内行花文鏡の基本デザインは、鏡背中央の鈕座の周りに8つの連弧が内向きに配置されたものです。しかし、連弧の数は必ずしも8つではなく、11個、9個、6個、5個のものも存在します。正式には「連弧文鏡」と呼ばれますが、日本では文様を花に見立てて「内行花文鏡」と呼ぶのが一般的です。

内行花文鏡にはさまざまなバリエーションが存在します。大きさは手のひらサイズから祭祀用の大型まで幅広く、文様も多様です。例えば、連弧の外側に雲雷文を並べた雲雷文内行花文鏡や、雲雷文が突起状になった雲雷文鏡の亜種などがあります。また、鈕座と連弧の間に「長宜子孫」などの吉祥句を入れたものや、連弧の外周に銘文を並べた内行花文銘帯鏡、鈕座に連珠文を配置したもの、直線と円を組み合わせた直弧文縁内行花文鏡などもあります。連弧と鈕座の間にも、多様な図像が彫刻されているものがあります。

鈕座の形状も様々で、コウモリ型、四葉型、円型などがありますが、大型内行花文鏡では八葉型が用いられています。

大型内行花文鏡と出土事例

内行花文鏡の大きさは様々ですが、特に注目されるのは、福岡県平原方形周溝墓から出土した直径46.5cmの大型内行花文鏡です。これは、現在までに日本国内で発見された銅鏡の中で最大級のものです。この鏡は、2006年に国宝に指定されました。

また、2017年には福岡市博多区の仲島遺跡で、ほぼ完全な形の、錆の少ない美しい内行花文鏡が出土しました。これらの出土例から、内行花文鏡が古代社会において重要な役割を果たしていたことがうかがえます。

内行花文鏡の価値

内行花文鏡は、その美しい文様や歴史的価値から、考古学や美術史の分野で重要な研究対象となっています。また、当時の文化や技術を知る上でも貴重な資料です。特に、国内で製作された仿製鏡は、当時の日本の技術水準や文化交流を知る上で重要な手がかりとなります。

内行花文鏡は、古代の人々の美意識や技術力を伝える、歴史の証人と言えるでしょう。

参考文献

* 岡村秀典『鏡が語る古代史』岩波書店、2017年。

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