佐藤喜一郎

佐藤喜一郎：激動の時代を駆け抜けた銀行家

佐藤喜一郎（1894年1月22日 - 1974年5月24日）は、日本の実業家、銀行家であり、帝国銀行（後の三井銀行）の頭取、三井銀行の社長、そして日本棋院の総裁を務めました。彼の生涯は、日本の経済が大きく変動した時代と重なり、その手腕は戦後の経済界に大きな影響を与えました。

生い立ちと三井銀行入行

神奈川県横浜市出身の佐藤は、横浜一中、一高を経て、1917年に東京帝国大学経済学部を卒業しました。米山梅吉の紹介で、三井銀行に入行。しかし、当初はニューヨーク支店長や大阪支店長など、海外部門や地方での勤務が長く、経営の中枢からは遠ざけられていました。1941年に三井銀行の海外担当取締役に就任、1943年の帝国銀行発足時には常務を務めています。

予期せぬ頭取就任

戦後、佐藤のキャリアは一転します。1946年、公職追放の発表に先立ち、万代順四郎会長、入間野武雄頭取をはじめとする経営陣が退任。池田成彬の子飼いで、万代の後継者と目されていた大矢知昇常務も退いたため、佐藤が予期せぬ形で頭取の座に就くことになりました。

戦後の混乱期と決断

佐藤が頭取に就任したのは、財閥解体という大きな変革期でした。彼は、財閥解体によって解体された三井系企業の再結集には反対の立場を取ったとされています。また、GHQが銀行には手をつけない方針であったにもかかわらず、帝国銀行からの第一銀行の分離独立を実行しました。この決断は、昭和初期までトップ行であった三井銀行が、第一銀行を合併してトップ行に返り咲いていた状況を一変させます。結果として、戦後の三井銀行は資金力不足から中位行に甘んじることになったとされています。

佐藤の一連の決断は、彼自身のマネジメント力に対する自覚と、当時の状況における不可避な選択だったとも言われています。慶應出身者らによる学閥の復活を警戒し、三井グループ各社や第一銀行出身者をまとめることが、彼にとって大きな負担であったと考えられています。

三井銀行社長として

1948年に帝国銀行から第一銀行を分離、1954年には三井銀行に名称を戻し、社長に就任しました。この際、役職名を頭取から社長に改称しています。その後は会長、相談役を歴任し、三井グループの総帥として活躍しました。柳満珠雄、田中久兵衛の両社長時代を経て、1968年の小山五郎の社長就任頃まで、実質的な決裁権限を持っていたとされています。

経済界のリーダーとして

社外においても、戦後日本の経済界のリーダーとして活躍し、経団連副会長などの要職を歴任しました。その功績は多岐にわたり、日本の経済発展に大きく貢献しました。

1974年5月24日、80歳で生涯を閉じました。

家族と親族

長男は矢野一郎の三女と結婚。長女は松本十郎に嫁ぎましたが、夭折。松本は後に伊藤博文の曾孫と再婚しています。

エピソード

経団連評議員会議長、社団法人日・タイ経済協力協会会長などを務めました。

日本経済新聞に「私の履歴書」を連載したことがあります。

日経ビジネス人文庫の「経済人の名言〈上〉―勇気と知恵の人生訓」に、佐藤の言葉が掲載されています。

死後、三井銀行佐藤喜一郎追悼録編纂委員会によって「佐藤喜一郎追悼録」が編まれました。

参考文献

佐藤朝泰 著 『門閥 旧華族階層の復権』 立風書房、1987年4月10日第1刷発行、ISBN 4-651-70032-2
山口日太郎 著 『メガバンク学閥人脈』 新風舎、2006年7月発行

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