佐藤定幸

佐藤 定幸（さとう さだゆき）

1925年から2015年までを生き、日本の経済学界に大きな足跡を残した研究者です。一橋大学名誉教授の称号を持ち、同大学経済研究所の所長や、大東文化大学の学長を務めるなど、教育・研究機関の要職を歴任しました。専門分野は多国籍企業論とアメリカ経済論であり、特に多国籍企業に関する研究においては、まだ国内での蓄積が少なかった時代にいち早く着手し、その後の日本の研究をリードする先駆者となりました。

東京に生まれた佐藤氏は、旧制芝中学校を経て、1943年に旧制東京商科大学（現在の一橋大学）の予科に入学しました。太平洋戦争中の1945年には陸軍機甲整備学校に特別甲種幹部候補生として進んだものの、終戦に伴い復学し、1948年に同大学の学部を卒業しました。大学時代は高橋泰蔵氏のゼミで学び、また、日本共産党に近い考えを持つ学生たちが組織した民主主義科学研究会（民研）の中心メンバーとして積極的に活動しました。この民研では、後に一橋大学教授となる岡稔氏や、横浜国立大学名誉教授となった本間要一郎氏、さらには日本共産党の機関紙『赤旗』の編集局長を務めた韮沢忠雄氏といった、多様な分野で活躍する同期の仲間たちと共に知的な交流を深めました。

卒業後の1948年には有限会社世界経済研究所に入所し、研究者としてのキャリアをスタートさせます。1954年に同研究所を退職後、同年には一橋大学経済研究所アメリカ経済研究部門の助手に着任。ここでは、著名な経済学者である都留重人教授や小原敬士教授に師事し、後にアメリカ経済史研究の大家となる本田創造氏とともに研究活動を始めました。地道な研究を続け、1969年には同研究所の教授に昇進。さらに1976年には、伊東政吉氏の後任として、第17代の一橋大学経済研究所所長に就任し、研究機関の運営においても指導力を発揮しました。

1989年、佐藤氏は一橋大学を定年退職し、名誉教授の称号を授与されました。同年からは大東文化大学経済学部の教授として迎えられ、教育活動を継続しました。大東文化大学では、1991年から1993年まで第2代経済研究所所長を務め、その後、1993年から1996年にかけては第10代の学長として、大学全体の運営にも尽力しました。

佐藤氏の主要な研究対象は、経済のグローバル化が進む中でその重要性を増していた多国籍企業の分析と、第二次世界大戦後の世界経済を牽引したアメリカ経済の構造理解でした。特に多国籍企業論においては、日本の経済学界においてパイオニア的な役割を果たし、その後の研究の基礎を築きました。これらの長年の学術的貢献は高く評価され、後に小島清氏らとともに多国籍企業学会の名誉会員に推挙されています。

研究成果は多くの著作にまとめられており、代表的なものとしては、日本の読者に多国籍企業の実態を広く紹介した『世界の大企業』（岩波新書、1964年）や、その後の主要な研究成果を集約した『多国籍企業の政治経済学』（有斐閣、1984年）などがあります。また、『戦後世界の景気循環』（三一書房、1959年）や『米国アルミニウム産業 : 競争と独占』（岩波書店、1967年）、『コングロマリット : アメリカの新しいビッグ・ビジネス』（毎日新聞社、1969年）、『国際資本戦争 : 砲火なき闘い』（日本経営出版協会、1967年）、さらには編著である『日米経済摩擦の構図』（有斐閣、1987年）や、『20世紀末のアメリカ資本主義』（新日本出版社、1993年）など、多岐にわたるテーマで重要な著作を世に送り出しました。これらの著作は、当時の経済状況や理論的課題に対する深い洞察を示しており、現在でも多くの研究者や学生に参照されています。

佐藤定幸氏は、激動の昭和・平成期において、経済学の研究と教育、そして大学運営に情熱を注ぎ、特に多国籍企業研究という新しい分野の開拓において顕著な功績を残しました。その学問的な足跡は、日本の経済学史において重要な一頁を占めています。

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