余慶

余慶（よけい）

生涯

余慶は、平安時代中期の天台宗の僧であり、俗姓は宇佐氏とされています。智弁という諡号でも知られています。円珍の門下であり、後の天台寺門宗に属する高僧でした。彼の法性寺座主や天台座主への就任は、山門派（延暦寺）と寺門派（園城寺）の対立を激化させる要因となりました。大雲寺（京都市左京区）の観音院に住んでいたことから、観音院僧正とも呼ばれます。

生い立ちと修行

延喜19年（919年）に誕生したとされる余慶ですが、出身地は筑前国早良郡とも日向国とも言われ、定かではありません。比叡山で明仙から天台教学を学び、康保3年（966年）には行誉から灌頂を受けました。その後の活動を通して、余慶は僧侶としての才能を発揮していきます。

僧としての活動

応和3年（963年）には応和相論で重要な役割を果たし、康保4年（967年）には東宮憲平親王の病気平癒のために不断法を修めました。この際、その加持の効果が非常に高かったと評されています。天延2年（974年）には藤原義孝の四十九日法要を修め、天元2年（979年）には園城寺長吏に就任するなど、着実に地位を築いていきました。

山門寺門の対立と余慶

余慶の生涯は、天台宗内の山門派と寺門派の対立に深く関わっています。

根本中堂供養会問題

天元3年（975年）、延暦寺根本中堂の完成供養会において、余慶は当初、職僧として選ばれていませんでした。これに不満を持った千光院派の僧たちが朝廷に訴えた結果、余慶は衲衆第一位を務めることになりました。この事件は、円仁門徒と円珍門徒の対立が表面化したものとされています。

法性寺座主就任と辞任

天元4年（981年）、余慶は円融天皇の病気平癒のために金剛夜叉法を修し、権大僧都に昇進しました。その後、法性寺座主に就任しましたが、円仁派が「法性寺座主は代々円仁門徒が務めるべき」と主張し、僧侶たちが藤原実頼邸に押し寄せる騒動が起きました。このため、余慶は法性寺座主を辞任することになりました。この事件は、比叡山僧による最初の示威行動とされています。この事件をきっかけに、余慶は数百人の僧を率いて比叡山を離れ、自身が建立した大雲寺観音院に移りました。

その後、天台座主良源が余慶らを殺害しようとしているという噂が流れ、朝廷が事態の収拾に乗り出しました。円融天皇は余慶に慰留の意を示し、戒を授けたり、御襲・表御袴を給わったりしています。

観音院時代

余慶は観音院に拠点を移した後も、朝廷の儀式や法要に携わりました。永観元年（983年）には御所で北斗法を修し、円融上皇の出家時には三聚浄戒を授けました。また、藤原実資らとの交流も持ちました。これらの活動を通して、余慶は依然として社会的に大きな影響力を保っていたことがわかります。

天台座主就任と再びの辞任

永祚元年（989年）、余慶は天台座主に就任しましたが、山門派の抵抗に遭い、任命の宣命を奪われてしまいました。さらに、比叡山で合戦騒ぎも発生し、余慶は天台座主の印鎰を返上して辞任しました。この時の宣命には山門派の門徒を「獅子身中の虫」と断じる言葉が記されています。この一連の出来事は、山門派と寺門派の対立が抜き差しならない状況に陥っていたことを示しています。

入滅とその後

正暦2年（991年）に余慶は入滅し、享年73歳でした。長保3年（1001年）、余慶の門徒たちが智弁の諡号を申請し、寛弘4年（1007年）に贈られました。余慶の墓所は大雲寺に現存しています。彼の活動は、山門派と寺門派の対立を激化させ、その後の天台宗の歴史に大きな影響を与えました。

余慶の僧歴

以下に余慶の僧としての経歴をまとめます。

承平5年（935年）：得度受戒
康保3年（966年）：阿闍梨、灌頂
安和2年（969年）：権律師、定心院十僧
貞元2年（977年）：律師
天元2年（979年）：園城寺長吏、権少僧都
天元4年（981年）：権大僧都、法性寺座主、法性寺座主辞任
永観2年（984年）：大僧都
永祚元年（989年）：天台座主、天台座主辞任、権僧正
正暦2年（991年）：入滅
寛弘4年（1007年）：贈諡号智弁

参考文献

摂関期古記録データベース
『延喜天暦御記抄』,『小右記』,『小記目録』,『権記』,『御堂関白記』,『親信卿記』
平林盛得『良源』, 吉川弘文館人物叢書, 1987
『日本紀略』, 「国史大系 第5巻」
『扶桑略記』, 「国史大系 第6巻」
『元亨釈書』, 「国史大系 第14巻」
平林盛得・小池一行『五十音引僧綱補任 僧歴綜覧』, 2008, 笠間書院

関連項目

昌子内親王
良源
僧兵
* 強訴

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